戦略と選択肢の洪水 ― カルドアンシェル(レビュー)

押し流されるか、耐えきれるか。


[タイトル]
カルドアンシェル [公式サイト]

[対応ハード] ※★でプレイ
★PC(steam) / PS5 / PS4 / Nintendo Switch / Xbox X|S / Xbox One

[プレイ時間 / 進行度] ※レビュー時点
50時間弱 / 最高難度をいくつかクリア


はじめに

今回レビューするのは、ローグライトカードの意欲作である「カルドアンシェル」だ。
本作は、散々擦り倒されたジャンルに、独特の捻りを加えている作品だ。

大量の劇中BGM、ハチャメチャなコンボ設計、キャラデザなど、とても尖っている。
こういった「意欲作」は、作品としてとっても完成度が荒れやすい印象だ。

噛み合って素晴らしい作品になるか。
噛み合わずにすべてが崩壊するか。
尖り切れずに劣化するか。

本作は、どんな結果だったのか?
さっそくレビューをしていきたいと思う。

また、私は本作に登場する原作を一つもやっていないところにはご留意願いたい。

 

アンロック要素少な目の、実力型ローグライト

散々擦られてきたこのジャンルだが、基本的に以下のような傾向にあると思う。

一つは、アンロック要素が多いタイプ。
これは、アンロックによる底上げをある程度前提とするタイプであり、
実質「RPG」のような、レベリングに近い要素が存在する。

もう一つは、アンロック要素が薄いタイプ。
古典的なローグライ”ク”に近いが、若干の恒久強化要素を入れたタイプだ。
リプレイ性や徒労感を抑えるための手段としてアンロックが位置づけられる感じだ。

本作はこの分類でいうと、後者に該当する。

その分、戦略要素やランダム要素はやや強めで、難易度重視の造りになっている。
その戦略面で特徴的なのは、「ディーヴァ」と「マス移動」だ。


ディーヴァ

ディーヴァシステムは、「レリック」と「クラス」の合いの子言っていい。
基本的に一回のランは3層で構成されているが、ディーヴァは一層ごとに獲得できる。

このディーヴァシステムだが、いわゆる恒久強化とは少し趣が異なる。
というのも、ディーヴァは戦闘中に特定の条件を満たすことで起動できるからだ。
起動の条件は様々であり、特定の「テーマ」に沿っている。

例えば「ドロー」テーマのディーヴァには、「カードを5枚引く」みたいな条件がある。
この場合、なんとかして戦闘中に5ドローすると発動し、該当の戦闘で恒久強化が得られる。

ディーヴァの効果は、ドロー追加などのリソース補充と火力アップに二分される。
この二つがどれだけ重要かはジャンルに精通していれば理解できると思う。
それゆえ、レリックっぽい要素でありつつ、デッキの核となるクラス的な要素にもなっている。

マス移動

本作のカードは、一般的なローグライトカードと異なり、「移動」にも使用できる。
これは文字通り3*3のマスを移動するのだが、これにより相手の攻撃を回避できる。
敵の攻撃はカードを一定枚数使うごとに行われるため、たまに移動を挟む必要がある。

このような「第二の使い方」があると、ローグライトカードはどんどん複雑になる。
だが本作の移動は、攻撃範囲が可視化されているのもあり、直感的でもある。
その上で、「ブロック」や「回復」系の防御管理とプレイフィールも異なっている。

そのため、新鮮でありながらも戦略的には受け入れやすいものとなっている。

ディーヴァと、デッキ構築

その上で本作におけるデッキ構築だが、カードプールの抽選範囲が限られている。
というのも、初手のディーヴァが例えば「ドロー系」なら、「ドロー系」から抽選されるのだ。
(正確には複数のテーマが最初に設定・決定される)

これは、他ゲーにおける「クラス」に近い。
ただそれと明確に異なるのは、この(事実上の)クラスがかなりの数あることだ。
そして、「複数ピックされる」という点が、大きくプレイフィールに影響する。

クラスを中心としたゲームは、「クラスの中で出来ることを増やすこと」が攻略になる。
つまるところ、「クラスの練度を上げる=やや狭いカードプールを仕上げる」となりやすい。
が、本作は「広いカードプールを把握する」ことがゴールになりやすい。

このあたりは、賛否が分かれるところだと思う。
否については後程述べるとして、個人的には割と新鮮なアプローチだと感じた。

というのも”クラス型”のゲームは、常に少しずつ前進する感覚がある。
それは、再現性が比較的高いが、劇的な変化は少ないからだ。

対してこのゲームは、「運が良ければ」劇的に変化がある。
だが別のディーヴァがピックされてしまえば、上達を感じることが出来ない。
そういったピーキーさは、意外と面白い体験だったように思う。

「移動」と侮るなかれ

更にいい点を挙げるとするなら、このゲームの「移動」は、ただの「移動」ではない。
というかまずこのゲーム、大量のシナジー要素がある。
ディスカード、自傷、ドローなど……、それらが全てかみ合ってシナジーとなる。

その中で、「移動」はただの「回避」ではないところに、深さがある。

例えば、「3コストのカードを使用すると特定の効果が得られる」というカードがある。
普通に考えると、「3コストのカード」を使える回数には制限がある。
だがこのゲーム、「使用」は「移動」も含まれ、「移動」はノーコストなのだ。

そして、例えばカードの効果で0コスト→3コストにしたカードも3コストだ。
逆に3コスト→0コストにしたカードも3コスト扱いになる。

だから、0コスト化した3コストカードを連打してもシナジーになる。
だから、3コストカードを無駄移動に費やすことでシナジーにできる。

こういった具合で、取れる選択肢が想像よりもかなり多い。
想像よりもシナジー効果は簡単に発動するし、ガンガンカードを使える。
そして想像よりもはるかに大量のアクションを1ターンで行うことになる。

というか本作、最終的には基本的にワンキルするのが前提なのだ。
最初に長考してから、詰将棋のようにデッキを回すゲームなのだ。
こういった長考が好きなタイプは、大いに満足できるだろう。


総じて、実力型であると同時に、「回し方」を楽しむことのできるゲームになっている。
要素の噛み合いやシナジーはとても可能性を感じるようになっているし、
実際はシナジーをフル活用してワンキルするのだから、爽快感もある。

個人的には、かなり楽しいカードバトルだった。

 

テンポの良さと、演出の派手さ

本ジャンルにおいて、テンポの良さはとても重要だ。
何回も同じことをするのだから、テンポが悪いのは致命的だ。

そして本作のテンポは、めちゃくちゃいい
演出はいつでもスキップできるし、カード消費の先行入力もできる。
トップクラスのサクサク動作で、ここに不満は一切ない出来だ。

更に、演出の派手さ……もとい、賑やかさがとても良かった。
本作はディーヴァが起動するとBGMが変わるし、全カードにボイスが付いている。
地味な作業が多くなりがちな本ジャンルにおいて、非常にプラスに働く。

総じて、サクサク出来るし、わちゃわちゃしていてそれだけで飽きにくい。
ローグライトというリプレイを要求するジャンルだからこそ、高く評価できる。

 

面白さが分かるまでがただただ長い

ここまで絶賛してきたが、本作の欠点は「面白さが分かるまでの長さ」だろう。
というかこれが結構致命的で、面白くなるまでに離脱することが大いに考えられる。
というのも、それは本作のゲーム性に大きな理由がある。

まず、先程も述べたように、本作は大量の「テーマ」を覚えるところから始まる。
そして、その「テーマ」を、ワンキルできるくらい回せるようになる必要がある。

デッキをしっかり回すには、テーマごとのシナジ―理解も必要になる。
そして、前提として「移動」は「使用」扱いみたいな知識も必要になる。
これは、めちゃくちゃハードルが高い。

その上で、ストーリーはシナジーを活かす必要が一切ない難易度になっているのだ。

だから、普通のプレイヤーはこうなる。
「頑張って1ステージやって、テーマを2つなんとなく理解して、次に進む」。
「シナジーもよくわからないまま、なんとなく次もクリアする」。

そしてそのまま、ゲームをクリアしてしまう。実際、私はそうだった。
シナジーを理解しないまま、カードプールの半分くらいを見ただけで、クリアしてしまう。
覚えたテーマを再度引くことは少ないから、上手くなった感じがしない。

結果として、ストーリークリア段階で面白さに気付くのは難しいと感じた。
上達を感じさせる要素がないのは、やはり致命的だと思う。

 

アンロック要素のちぐはぐさ

その上で、本作のアンロック要素は若干ちぐはぐなように感じる。
というのも、これが「足切り」になっており、「徒労感の軽減」として機能していないのだ。

まずアンロック要素なのだけど、重要なのは2つある。
1つは、プレイヤーが有利になるような若干の乱数制御系。
もう一つは、「ワイルドカード」の設定だ。

この「ワイルドカード」は、いわば「カードの持ち込み」が出来る。
これらのカードは1ターンに1回手札に加えることが出来る強力なものだ。
また、1度加えたカードはその周回では再度加えることは出来ない。

で、このアンロックなのだが、最高難易度は特に「必須」になっている。
これがないと、相当運が良くないと突破できないような仕様になっているのだ。
だから、このワイルドカードの枠をなるべく増やすことが「足切り」になる。

なのだけど、ストーリークリア段階では一切必要がない
というかこのゲーム、クリアするだけならシナジーもクソもない。
当然、ストーリー段階でアンロックの恩恵を感じることはあまりない。

これが前述の「テーマがガンガン変わるから成長を実感しない」と噛み合ってしまっている。
ストーリー段階では、上手くなった気がしないのに適当にクリアできてしまう。
高難度でシナジーを勉強する段階になったら、今度は足切りされる。

これが噛み合っておらず、「なくてよいのでは?」とすら思うところがある。

 

総評

尖ったシステム、プレイフィールも尖ったローグライトカード。
デザインやBGMやボイスなども、いい感じに尖った意欲作。
ちゃんと理解したときの面白さと、爽快感は唯一無二だ。

だけど、面白さが分かるまでが長い
というか、ストーリークリア段階で面白さが分からないのは如何なものか。
面白さが分かるとトップクラスのローグライトカードだと思うのだが。

例えば、ストーリー段階の難易度を上げつつ、ストーリー中はディーヴァを選べる。
こんな形で、ストーリー段階でシナジーの面白さを教えてくれたらな、と思った。

私もこのゲーム、一回ストーリークリアで区切ってやめていた。
アプデが終わったとのことで高難度をやる段階になって、あり得ないくらい面白くなった。
一回ゴミ箱に入れてからがスタートな「elona」かよ、って感じだ。

総じて、プレイヤー導線はやや投げっぱなし感はあるものの、非常に面白いゲームだった。
少し変わったローグライトカード、特に長考が好きなタイプに大いにおすすめ出来る。

 

個人的お勧め度: ★★★★★★★☆☆☆(7/10)

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