大盛り風半ライス ― MONSTER HUNTER RISE: SUNBREAK(レビュー)

腕の見せ所は、「見せ方」である。


[タイトル]
MONSTER HUNTER RISE: SUNBREAK [公式サイト]

[対応ハード] ※★でプレイ  
★PC / Nintendo Switch

[プレイ時間 / 進行度 / ver ] ※レビュー時点
90時間程 / 一通りクリア / ver10.0.3 (2022.7.8配信)


はじめに

次世代の「ライトな」モンスターハンターとして、大きな成功を収めた「ライズ」。
その続編となるアペンドDLCが、今回レビューする「サンブレイク」だ。
プレイヤー間では「G級」と呼ばれる、追加難易度のリリースを行うDLCである。

モンスターハンターシリーズにおける「G級」作品は、いつも「蛇足」と隣り合わせだ。
根幹はハクスラである本シリーズにおいて、上限開放は「同じこと」をさせる要因になる。
だからこそ、真新しい要素や新モンスターがいない限り、蛇足になりかねない。

そのような前提を考えた際、本作は「蛇足」では無かった。
というより、蛇足と感じさせるだけの「狩り」を、前作で提供出来ていなかった。
「狩り」を提供した本作は、唯一の欠点を改善した「正当進化」と言って良いだろう。

ということで、細かく見ていくとしよう。

 

蛇足であり、蛇足ではないアクション

今作の大きな目玉の一つは、ハンターのアクション追加だろう。
サンブレイクのアクションは、「入れ替え技」に焦点が当てられている。

まず、入れ替え技(使えるアクションを入れ替えるシステム)に対応した技が増えた。
そして、入れ替え技をリアルタイムで入れ替える「疾替え」が登場した。
これらの追加は、「蛇足であり、蛇足ではない」ものだと感じる。

このあたりを、少し細かく見ていくとしよう。

 

入れ替え技の増加が、もたらしたもの

そもそも技を増やすということは、出来ることが増えるということでもある。
それ故に、全武器にカウンターや機動力などの「武器ごとの特色」を配ることになり得る。
それは、武器の特性やプレイフィールを殺しかねない変更だ。

そして、確かにサンブレイクでは全武器がある程度のことを出来てしまう。
そういった意味であれば、ある種の失敗でもあると言えよう。
だが、サンブレイクにおけるこのあたりのバランス感は、とてもよい。

というのも、カウンターや機動力や大技は「前提」として扱っているのだ。
その辺りを「QOLを確保する要素」と位置付け、他の部分に特色を用意している。
だから、武器の特色が大きく損なわれたようには感じにくい。

とはいえ、アクションゲームとして見た場合、やっていることは近しくなっている。
どう攻撃を受けるか。どう反撃するか。どうリソース管理するか。
これらが、過去作と比べ武器の特色が薄くなっているのは間違いない。

だが、それ以上に武器ごとの「気持ちいいところ」の補強が大きい。

武器を選ぶ理由を、アクション的な解答の探し方に設定しない。
武器を選ぶ理由を、武器特有の気持ちよさに設定する。

そういった、デザイン的な「転換」を感じるバランスであり、悪くない。

 

疾替えがもたらしたもの

疾替え。
「入れ替え技」を「戦闘中に入れ替える」このシステムは、根本を覆すものだ。
というのも、「入れ替え技」という「トレードオフ」の為のシステムを破壊するからだ。

実際、その懸念が現実になってしまっているのは、ある種間違いないと思う。
このようなシステムを導入するより、入れ替え技のボタン制限を撤廃したほうが美しい。
そもそものトレードオフをよりシビアにし、戦略性を持たせたいなら猶更だ。

確かに、連続狩猟におけるスタイルの切り替えとしては成立している。
確かに、バフの維持という要素の追加としては成立している。
とはいえ、それは本当に疾替えの実装でやるべきことだったのだろうか?

……と、ここまで書いて、実は失敗ではないように思う。
先程の問いの答えは、「アクションの美しさ」としては「実装すべきではない」だ。
だが、「追加要素」としては、「実装しても構わない」になるからだ。

そもそも疾替えは、恐らくプレイ人口の数パーセント程度しか有効活用出来ない。
それくらい活用がシビアであると同時に、活用した際の影響度がそこまで大きくない
だから、使う必要性がそもそもない要素なのだ。

それでも、新スキルのネタとして。新バフの追加として。
純粋な「追加要素」として、既存要素を壊さずに実装出来ている。
疾替えは、既存部分を壊さない追加要素として非常に巧みなものなのである。

 

という感じで、新要素はアクションのデザイン的には「蛇足」と言ってもいい。
だが、それを「蛇足」と感じるなら別に利用しなければいい。

だから、蛇足に見えて蛇足ではない。
アイスボーンにおける「クラッチクロー」などと比較しても、素晴らしい塩梅だ。
このあたりのシステムにあった負のイメージは、一切無いと言っても差し支えない。

 

相変わらずのモンスターデザイン

サンブレイクでは、各モンスターに新モーションの追加がされている。
また、当然ながらサンブレイクでのモンスター追加もある。
このあたりの評価についても、細かく見ていこう。

 

マスターランクの追加モーションという名の、カウンター潰し連続攻撃

マスターランクの追加モーションは、初段カウンターを潰すような連続攻撃が多い。
だが、これは「カウンターありき」だからこその、新しい駆け引きを生んでいる。

そもそも、「相手のターンに攻撃して受けはカウンターする」というのは、歪みでもあった。
前作は、カウンター潰しのモーションが少ないが故に「簡単すぎた」とも言える。
だから、初段をカウンターしてはいけないモーションが増えるのは、当然の摂理でもある。

また、「連続攻撃自体をするかしないか」が、ランダムなモーションも増えた。
これは、サンブレイクの「総カウンター時代」だからこその面白さがある。

カウンターが無いなら、連続攻撃が終わるまで待つしかない。
それは、アイスボーンでよく見られた「様子見の強要」であり、不愉快でもあった。
だが、今作は「想定される最終段」の一段手前で攻勢に転じ、カウンターを構えればよい。

だから、「何に派生するか?」の候補を把握することと、カウンターの管理が重要だ。
アクションのレベルを総じて上げつつも、不快感は抑えられている。

 

アクションの本質を捉えている、新モンスター

サンブレイクの新モンスターは、やはり良く出来ている。
特に看板モンスターのメル・ゼナの出来は「大変素晴らしい」の一言だ。

新モンスターは、総じて「緩急」がとてもしっかりしている。
攻撃は苛烈で、連続攻撃も多く、雑にカウンターをするだけでは勝てない。
だが、それでもちゃんと「ターン制」をしている。

というのも、確定威嚇のタイミングが存在したり、攻撃の後隙がそもそも大きいのだ。
だから、ヒットアンドアウェイという昔ながらのアクションを、じっくり楽しめる。
更に、「攻撃タイミングの安定感」は、ある程度の武器格差の解消にもなっている。

 

と言った感じで、基本的には優れたデザインであるのは間違いないだろう。
お手軽でありつつ、適度に難しく、そして奥が深い。
そんなライズのアクションをブラッシュアップした、そんな印象だ。

 

これは古代樹の森ですか?

そんなサンブレイクの新規要素にも、失敗作はある。
それは、新フィールドの「城塞高地」だ。

このフィールドは例に漏れず、戦闘エリアと探索エリアを分断している。
戦闘エリアとしての利便性と探索性の両立という、前作における評価点の一つだ。
これが徹底されたライズは、フィールドの出来は非常に素晴らしいものであった。

だが、城塞高地の戦闘エリアは異常なレベルで狭く、段差が多い。
そして、通路が非常に長く、サブキャンプも非常に少ない。
折角ライズの方針を踏襲したのに、本質的な部分はお粗末な出来なのだ。

狭いエリアの中央に塔を設置し、カメラが常に荒ぶるなんておかしいだろう?
狭いエリアに複数の通路があり、基本的に敵が通路に移動するなんて異常だろう?
狭いエリアの半分は崖で、事実上半分しか戦闘エリアが無いなんて致命的だろう?

正直、城塞高地は「糞マップ」と言って差し支えない。
本マップが、新クエストの多くで採用されているのも向かい風だろう。

 

狩りゲーとしての課題点への、一種の解答

以前、私は「モンスターハンターシリーズにおける装備システム」について記事を書いた。
細かい内容についてはリンク先を参照頂きたいが、ざっくりいうとこうだ。

  • 武器選択はプレイ内容に影響を及ぼさないから、期待値ゲーになる
  • 防具選択における死に防具が多すぎるが故に、テンプレゲーになる
  • 上記の問題により、狩りの対象に過度な偏りが生じる

そして、サンブレイクでは「ある程度の」解答があったと思う。
ということで、細かく見ていこう。

 

属性武器に光を与えたという、及第点ギリギリの解答

まず、武器については属性武器に焦点が当たった。
属性武器は基本的に不要であったライズと異なり、今回は属性武器もそれなりに強力だ。
だから、一応はいろいろな武器を使うメリットは存在する。

だが、これは及第点ギリギリの解答だ
というのも、属性は強いとはいえ「プレイスタイル」を変えるほどではない。
相変わらず物理ダメージの方が割合としては高く、狙う部位も同じだ。

そこに一石を投じるのが、入れ替え技だ。
入れ替え技には、属性補正の強くなるモーションが存在する。
属性運用をしたいなら、属性運用をしやすい入れ替え技を使うことになろう。

つまるところ、今作の属性武器は入れ替え技ありきなのだ。
入れ替えた結果として、属性武器を利用した際のプレイフィールが変わってくるのだ。

だが、これは「属性」そのものへの改善ではない。
入れ替えモーションが大きなプレイスタイルの変化を強要しない場合、問題は残る。
だから、結局のところ「プレイフィールを変える選択肢」にはなり切れていない

選択肢は確かに増えたが、付け焼刃的な対応に近い印象を受ける。
それでも一択ではなくなったが故に、及第点ではある。

 

武器とは対照的な、非常に素晴らしい防具デザイン

では、防具についてはどうだったか。
これは、大成功だと個人的には思う出来であり、素晴らしいスキルデザインだ。

というのも、今回のサンブレイクには「疑似シリーズスキル」がある。
これは特定防具に付いているスキルであり、特殊な効果を持っている。
そしてこのスキルは、期待値を計算するのがなかなかに難しい

だから、期待値的な最適解を考えるのが、一般プレイヤーにはほぼ不可能だ
こういったシリーズスキルが大量にあるからこそ、ビルドの選択肢は非常に広い。

それに加え、お守りが非常にいい味を出している。
前述の疑似シリーズスキルは、アクセサリーであるお守りに付くことがあるのだ。
だから、「期待値的な最適解」が仮に分かったとしても、お守りの効率性が入ってくる。

そういった意味で、お守りや防具とにらめっこしながらビルドを考える楽しさがある。
また、それを運用して検証するという楽しさもある。
テンプレはあっても、「それ以上を各々が考える余白」が大いに存在している。

私の「テンプレになるなら装飾品ゲーにすればいい」という破滅的な解答よりも良い解答だ。

 

偏りを解消するための、動機付け

最後に、狩りの対象の偏り問題についても触れていく。
この問題については、サンブレイクでは大きく改善されたと言っていい。

まず、マスターランクという純粋なランクの追加。
これにより、単純にモンスターを狩りなおす機会が増えた。
これについては、特に言う事は無いだろう。

そして、前述の装備バランス問題のある程度の改善。
これにより、いろいろなモンスターを狩る意味合いが出てきた。
優秀な装備の排出モンスターに偏りはするが、対象は多い。

最後に、エンドコンテンツによる改善。
エンドコンテンツは、基本的には強化個体の狩猟が中心となる。
ある程度の熟練があれば通常種より快適である上に、対象をある程度自由に選択できる。

これらにより、全モンスターをまんべんなく狩る動機が与えられている。

 

これらのことから、サンブレイクは「最速最強装備作成で終わり」にはなりにくい。
じっくりコンテンツを楽しみ切れるように、綺麗に導線が設計されている。
50-100時間くらいは、普通にメインコンテンツの感覚で楽しむことが出来るはずだ。

 

演出面のクセが無くなったということ

最後に、演出面についても少し触れていこう。
今作サンブレイクは、演出面における「クセ」が、大幅に少なくなった。
前作ライズは、至る所に「クセ」があった。

「アニメチック」なキャラクターの演出や、ボーカル入りのBGM。
モンハンらしくない、だが新しくも和風な演出が盛りだくさんだった。
その最たるものが、生態ムービーにおける琵琶法師だろう。

今作は、そういったキャラクターや演出におけるクセは無くなった。
なんというか、「テイルズオブアライズ」で発生したような転換が起きている。
これはこれで万人受けはするかもしれないが、個人的には残念だ。

 

正直、今作のBGMで印象に残ったものは少ないし、ムービーもほぼ覚えていない。
それくらい溶け込んでいると言えるのかも知れないが、物足りない。

唯一印象に残ったのが、琵琶法師最後の語りである。
和の語りに、洋の言葉遣いを組み込んだ非常に見事なものであった。
それ故に、その続きを本当に見てみたかったものだ。

合掌ぉぉぉおおおおおおおおお~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!

 

総評

アクションとして優れ、ゲームとしても優れた前作ライズ。
そんな前作の欠点が、「最短最適解最強」を爆走するだけの「コンテンツ消費」だった。
狩りゲーとしての魅力を破壊してしまう、過度な情報化に殺されたゲームだった。

それに対して、サンブレイクは「殺されにくい」ゲームデザインだ。
確かに、攻略をコピーしてコンテンツ消費に興じることも出来よう。
それでも、明確化しにくい期待値と、満遍なく狩る為の動機がそこにある。

最後にぶっちゃけると、サンブレイクの「実際のボリューム」は、かなり薄い。
初期バージョンにおける追加分は、ライズの無料DLC程度のボリュームだ
今後DLCで補強はされるだろうが、少なくとも現時点では明らかに少ないと言っていい。

そう……本作も「半ライス」の系譜だ。
だが、「見せ方」が違う。「楽しませ方」が、違う。
半ライスを大盛りに見せプレイヤーを満足させる、「シェフの腕」が垣間見える作品だった。

 

個人的お勧め度: ★★★★★★★★★✩(9/10)

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