儚き旋律の雨に、溺れる ― ENDER LILIES: Quietus of the Knights(レビュー)

その雨は、圧倒的な「こだわり」という情報量そのものだ。


[タイトル]
ENDER LILIES: Quietus of the Knights [公式サイト]

[対応ハード] ※★でプレイ  
★PC / XBox One / Nintendo switch / PS4

[プレイ時間 / 進行度] ※レビュー時点
20時間 / エンディング・手記コンプ


はじめに

今回紹介するのは、メトロイドヴァニア系のアクションRPGであるEnder Liliesだ。
難易度は比較的高めで、「死にゲー」の部類に入るようなゲームだろう。
とはいえ、ベース部分は普通のメトロイドヴァニアで、それ以上でも以下でもない。

メトロイドヴァニアは、インディーの得意分野だ。
王道で分かりやすい探索の面白さをベースに、情熱を込めるのだ。
それ故に、面白さは開発者の「こだわり」に大きく影響される。

いろいろ言いたいことはあるのだが、先に一つだけ言っておく。
本作は、今年やったゲームの中で一番のゲームといっても過言ではない

ということで、さっさと本題に入るとしよう。

 

説得力のあるエリア設計

メトロイドヴァニア系……というより、エリア開拓をベースとするゲームであれば、
そのエリアに対しての「説得力」が「探索の感動」を齎すと私は思う。
そしてその説得力を生むのは、以下の要素だと考えている。

  • エリアの構造/グラフィック表現
  • エリアのバックグラウンド
  • 世界そのものの地理/構造

本作は、そのすべてを完璧にクリアしている。
これは非常に珍しく、ハイレベルな例として初代ダークソウルなんかがあるだろう。
折角なので、少し説明を加えて細かく見ていこう。


エリアの構造/グラフィック表現

そのエリアのグラフィックや、足場/エレベータなどの構造物の有無。
そのエリアに見合ったものであり、なおかつ種類に富むほど、全体の完成度が高い。
Ender Liliesは、いろいろなロケーションがあると同時に、細かいディテールにも余念がない。

ネタバレを避けるために濁して書くが、ダークソウルの「最下層」をご存知だろうか?
どんどんと地下へ降りていく類のマップなのだが、降りるほどに暗く汚くなっていく。
地下に降りるというイメージと、実際のマップデザインがリンクした例と言える。

本作にも、そのようなマップが数多く存在する。


エリアのバックグラウンド

そのエリアの背景ストーリーや、場所の成り立ち。
ただエリアがあるのではなく、そこにそれがある理由が納得できるほど素晴らしい。
Ender Liliesでは、手記などで断片的に語られるストーリーを元にエリアが存在している。

これがとにかく、世界観の深みを強く創り出している。
全てのボスは主人公と関係があるし、そのロケーションと関係がある。

一つ一つのエリアに、一つ一つのストーリーがあるのだ。
これは言うのは簡単だが、完璧に実装されているゲームは多くない。
仮にストーリーがあったとしても、何か一つ歯車が狂ったら成立しないからだ。

ストーリーを「想像させる」仕掛けと、ストーリーを「想像できる」材料。
この二つが巧みに織り交ぜられているから、本作はそこに没入できる。


世界そのものの地理/構造

細かいところだが、世界全体で見た時に説得力があるかどうか。
エリア単体ではなく、マクロの地理的な要素で説得力があるほと素晴らしい。
Ender Liliesのマップは、繋がりや位置関係の「納得感」が非常に高い。

先程述べた「最下層」的な構造は勿論だが、それ以外にも理由付けがある。
何故そこに「最下層」があるのか?まで描き切っているから、素晴らしいのだ。

降りていけば、汚物溜まりに辿り着く。
これは、あくまでも自然原則に則ったものでしかない。
だけど本作は、なぜ「汚物溜まり」を表現するに至ったのか?まで教えてくれる。


ネタバレしたくないので曖昧に書いたが、とにかく世界の解像度が高い。
ゲーム的に見ても、ミクロのストーリーで見ても、マクロで見ても素晴らしい。
これだけの完成度でありながら、矛盾が生じないように緻密に描かれている。

探索中に何を見ても、それがとにかく刺さる。
高尚な考察などする必要もなく、とにかく圧倒的な完成度で刺さる。
このエリア設計の素晴らしさは、近年で類を見ないレベルだ。

 

アクションとしての面白さ

良い「死にゲー」と、悪い「死にゲー」は何だろうか?
そう考えた時、個人的には「死に前向きになれること」だと思う。
次は上手くやれる、と思わせなければならないのだ。

Ender Liliesでは、回避や攻撃の猶予は比較的短い。
だが、敵の攻撃モーションはめちゃくちゃ分かりやすく作られている。
特に敵が赤く発光する予備動作が分かりやすく、判断ミスで負けたことを実感しやすい。

また、攻撃アクションに過度な種類が存在しないのも評価点だ。
アクションがいくらあっても、後隙に攻撃するだけならやることは同じだ。
モンハンで「叩きつけ」をやるのと、「縦3」を2セットやることに差はない。

それでいて、戦術を左右するような要素はしっかり抑えている。
このボスは遠距離なのか、中距離なのか、パリィなのか。
そういった基本的な種類は存在しているし、どれも有効だ。

このようなアクション設計は、SEKIROや昔のモンハンに近いものだ。
シンプルだが、難しい。しかし、分かりやすい。
そういった「アクションの面白さ」を突き詰めたとも言えるだろう。

また、上記の記事でも述べているが、本作の「入力のシビアさ」はほとんどない。
敵の行動への対処検討と戦術設計を、高い完成度で実行させることで攻略となる。
難しめではあるものの、ちゃんと「攻略している感」のある、良質なアクションだ。

 

全ての要素が、世界観に準じている

世界観表現。
これがEnder Liliesの特に素晴らしいところだ。

前述のエリア設計そのものが、強固な世界観を構築しているのは言うに及ばない。
だが、本作は他の要素についてもその追及に余念がない。

例えば、主人公の使う「アクション」は、浄化した敵を「使役」する形で行われる。
例えば、回復行動は「祈り」だし、経験値は「穢れ」として表現される。
例えば、エリアを塞ぐギミックは、ストーリーでも触れられるものだったりする。

大概の作品は「ゲーム的要素」を、ここまでバックストーリーに倣って設計出来ない。
必ず、どこかでボロが出る。ゲーム的な何かが、顔を覗かせる。

だが本作は、どんな細かいゲーム的要素であっても、何かしらの理由付けがある。
それゆえに、他の作品には見られない圧倒的な説得力がある。
エリア探索だけではなく、単純に「ゲームをやること」が、没入の足掛かりになるのだ。

 

音に対するこだわり

本作の素晴らしい点はいくらでもあるのだが、最後に一つだけ紹介しよう。
それは、「音」だ。

BGMは世界観に沿った儚いもので、数自体もかなり多い。
どれもメロディアスで、昨今のゲームには見られないくらいの主張がある。
だが、その主張あっての世界観である、と思わせるくらいに馴染んでいる。

なんとゲーム開始から10分くらいの間に、歌入り含めてBGMがめちゃくちゃ切り替わる。
ボス戦のBGMは全て2種類あるし、エリアBGMも篝火エリア用に全てアレンジがある。
このBGMの多さは、異常なレベルだ。そしてどれもクオリティが高く、儚い。

だが、それ以上にこだわりを感じた部分がある。
それは「雨」の音だ。

そもそも「雨」だが、これは背景ストーリー上、重要な要素の一つだ。
そんな「雨」なのだが、例えば屋外エリアで廃屋に入ると雨音が変わる
めちゃくちゃ細かいことだが、この細かさには強く感銘を受けた。

確かに、これは些細なことかもしれない。
確かに、リアル趣向のゲームではやらないと逆に不自然だろう。
だが、2Dインディーゲーで「あえて」そこを表現したか、と感じるのだ。

静かな雨音と、篝火エリアの優しいアレンジ版BGM。
でもその雨は、全ての問題の始まりでもある。
その対比の中に、秘めたるこだわりを感じずにはいられなかった。

余談になるが、BGM担当はMiliなのでファンの人は必聴だ。
私は本作で初めて知ったのだが、あまりにも良すぎてサントラを買った。

 

総評

エリア設計、アクション、音。
ゲームにおけるほぼすべての要素に、世界観が反映されている。
細部に手抜きは一切なく、完璧なまでに構築されている。

正直、アクション面に多少問題があっても、その表現レベルの高さだけで満点クラスだ。
それだけ、圧倒的な世界観とこだわりを見せつけてくる。
私の考える「ゲームならではの表現」の完成形とも言える、本当に素晴らしい作品だ。

だが恐るべきことに、本作には純粋なアクションとしての面白さもある。
それもあって、本作はあの初代ダークソウルと並ぶレベルの完成度だと考える。
どこを切り取っても、褒める部分しかない。

本作はインディーゲーでとても安いので、是非やってみてほしい。
値段以上の体験が出来ること間違いなしの、本当にお勧めの作品だ。

 

個人的お勧め度: ★★★★★★★★★★(10/10)

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