運ゲーで、実力ゲー ― Slay the Spire(レビュー)

甘美な二律背反。


[タイトル]
Slay the Spire [公式サイト] ※ないっぽいのでsteamリンク

[対応ハード] ※★でプレイ  
★PC / Nintendo Switch / PS4 / XBox One / iOS

[プレイ時間 / 進行度 / MOD ] ※レビュー時点
30時間程(クリアは7時間程度) / 全キャラ表クリア&やり込み25%くらい / 便利系導入


はじめに

ローグライクなカードゲーム、というインディー大人気のジャンルがある。
風来のシレンのような「一期一会」なプレイと、カードゲームを融合させたものだ。
その先駆けと言われているのが、今回取り上げる「Slay the Spire」だ。

ゲーム内容としては、道中でカードを集めデッキを作成し、ボスを倒すというものだ。
カードで選択が簡略化されており、分かりやすさとリプレイ性で人気のジャンルだ。
アクション要素や、マップ探索要素が無いことから開発も容易なように感じる。

このジャンルの起源にして、頂点。
そのような評価を受けることが多々ある本作だが、後発と比べてどうなのか。
オリジナルの「思い出補正」で、歪められた評価ではないのだろうか?

そのような、少し「批判的な目線」で本作をレビューしていこうと思う。

 

後発と比較しても光る、テンポの良さ

まず、本作は「繰り返しプレイ」を前提としたゲームだ。
というか、ローグライクというジャンル自体がそのような傾向にあるのは間違いない。
そんな中で、最も重要な要素の一つはテンポの良さだ。

Slay the Spireは、後発と比較しても非常にテンポが良い。
それは、純粋なUIレスポンスや待機時間の少なさだけではない。
というのは、Slay the Spireのカード効果やパッシブ効果にある。

本作のカード効果や、パッシブ効果はとてもシンプルなのだ。
先発だからこそ、凝る必要が無かったとも言えるかも知れない。
だが、凝っていないからこその「分かりやすさ」は、読解の時間を大きく削減する。

普通に、計算が面倒だったりそもそもの理解が面倒な要素が少ないのだ。
Tainted Grailのような、「そもそもが面倒」ということがほぼ存在しない。

 

乱数の広さと、雑さ

後発と比較した本作の特徴として、圧倒的な乱数の広さがある。
明らかにシナジーを形成出来ないような選択肢が、普通に出てくるのだ。
それは、広さというよりある種の「雑さ」と映るかもしれない。

Slay the Spireは、「ハズレっぽい」と「正解っぽい」の差が大きい。
初回クリアの範疇だと、ハズレを引き続けたから負けたということになりがちだ。
これは、前述の「分かりやすさ」の弊害であるとも言える。

効果が分かりやすいからこそ、期待値が算出しやすい。
そんな中、明らかに要らないステータスを与えるパッシブが出たら、どう感じるか?
そう……クリアに必要な「正解」と「不正解」が、ひどく極端に感じるのだ。

……とはいえ、これには裏があるので詳しくは後述する。

 

変わり映えのしないプレイフィール: 攻撃面

Slay the Spireには、4人のキャラクターが存在する。
例の如く、それぞれに違ったカードと違ったパッシブ効果がある。
同じカードで違う戦術を取れるというのも、ジャンルの魅力だ。

だが、本作に限って言えば、キャラ毎のプレイフィールがほぼ変わらない。
そして、「キャラクターを変える」ということに、分かりやすい魅力がない。

その理由として挙げられるのが、ゲームプレイのパターンが同じという事だ。
ゲームプレイのパターン……というのは、どのように攻略をするのかという事だ。
本ジャンルであれば、「どうやってダメージを出して」「どうやって防御するのか」だ。

Slay the Spireにおける「ダメージを出す手段」に、パターンがほぼ無いのだ。
それは、特定の数枚のカードを投げつけるというもので、割とそれ一辺倒だ。

リソースを一気に使うとか、時間経過ダメージで倒すといった「差別化」はある。
だが、その「引き出し方」が、結局は「カードを投げつけること」になってしまっている。
ターンを跨ぐとか、リソース自体が別の手段で溜まるみたいな事がほぼない。

だから、どのキャラクターも「特定のカードを揃えて殺せ!」になってしまう。

 

変わり映えのしないプレイフィール: 防御面

上記で、ダメージを出す手段について触れた。
ここでは、防御面での駆け引きについて触れていく。
ざっくり言ってしまうと、こちらのパターンもほぼほぼ同じだ。

というのも、どのキャラであろうと「防御値」で相手の攻撃を受けるのが基本だからだ。
確かに、一部キャラは「ライフで受ける」みたいなデザインに近かったりする。
だが、それでも「防御値を上げるカード」で防御するという基本パターンに変化はない。

アクションに例えるなら、全キャラ「ガード」するしかないのだ。
スーパーアーマーで受けて回復するとか、無敵で回避するとかのバリエーションが無いのだ。

 

変わり映えしないからこその、カード面の勿体なさ

私が、上記の「バリエーション」を気にするのは、大きな理由がある。
というのも、このバリエーションによって、リソースの重みが変わるからだ。

例えば、アーマーで受けて回復するキャラにとって「ガード性能」の重要度は低い。
例えば、消費コストの高い攻撃をぶっ放すキャラにとって「ドロー」の重要度は低い。
こういった形で、カードが齎す「リソースの重さ」が変わるのだ。

そして、Slay the Spireも例に漏れず、共通カードというものが存在する。
この「共通カード」を「どう運用するか」というのが、リソースの重さで大きく変わるのだ。
これらが上手く揃えば、「同じカードを」「違う使い方で」輝かせることが出来る。

だが、本作のリソース比重はキャラ間でそこまで大きくない。
それ故に、共通カードを強力にしたら「共通カードゲー」になってしまう。
共通カードに多様な用途がある後発と比べ、本作の共通カードは「ただの脇役」である。

キャラクター固有カードは同じような効果ではあるが、カード自体は違う。
それで、ある程度の「キャラクター間の新鮮さ」は出せている。
それでも、「見知ったカードを違う使い方で輝かせる」ことが難しいのが、とても勿体ない。

 

変わり映えのしないプレイフィールに、大きな乱数

似たような「地味な」プレイフィールに、大きな乱数が乗っかっている。
それってつまりは、地味な運ゲーなのではないか?
そう思った方も、中にはいるのではないだろうか。

それは、半分正解で半分不正解だ
これが、本作の面白いところであり、面白くないところでもある。

最初に述べた、「正解っぽい」と「ハズレっぽい」という概念。
これが実は、めちゃくちゃ細い線で「ハズレ」ではないのだ。
特定のカードを引ければ、特定のパッシブが被れば、大当たりになるのだ。

だから、やればやるほど「実は正解な選択肢」が見えてくるゲームなのだ。
そして、カードが地味であるが故に、知識があれば「期待値」が算出しやすい。

初回クリアは、分かりやすいシナジーを形成出来る「正解」を引く運ゲー。
キャラを変えてクリアしていっても変わり映えはしないし、同じような運ゲー。

だが、何回かやっていくと「分かりやすい正解より期待値のある線」が見えてくる。
本当に地味だが、それがキャラ毎に微妙に異なった線として存在している。
深くやればやるほど、その「線」が無数にあることに気が付く。

これこそが本作の最も大きな魅力であり、物凄いスルメゲーである所以だろう。

 

総評

起源にして、頂点。
そうであると断言するには、少し「リプレイ性」に特化しすぎている。
だが、「リプレイ性」を鑑みるならば、トップクラスであるのは確かだ。

後発の作品は、初回プレイの面白さに特化したものが多いように感じる。
プレイフィールの大きく変わる個性的なキャラクターは基本中の基本だ。
カードやパッシブも、「ハズレっぽさ」を抑えて不快感を感じにくくしている。

本作は、リプレイ性の為に初回プレイの面白さを大いに犠牲にしている
だからこそ、周回プレイの面白さに気付ければ長く遊んでいける作品だろう。
たまーに一回だけやりたくなるような「謎の魅力」が、そこにある。

見えなかった勝ち筋が見えると、「運ゲー」が「実力ゲー」になる。
逆に、美味しいところだけを楽しむライトゲーマーには、普通の良ゲー止まりだろう。

「乱数の多さ」「快適さ」を維持しつつも、プレイフィールを変える。
本作と後発を完璧に調整出来るならば、理論上は可能だろう。
これらが全て揃ったゲームが出た時、頂点の座が移り変わるのだろう。

 

個人的お勧め度: ★★★★★✩✩✩✩✩(5/10)

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