平凡なドラマ、平凡なSLG。だが…… ― 十三機兵防衛圏(レビュー)
物語を進めるのが自分自身なら、平凡にはなり得ない。
[タイトル]
十三機兵防衛圏 [公式サイト]
[対応ハード] ※★でプレイ
★nintendo switch / PS4
[プレイ時間 / 進行度] ※レビュー時点
30時間 / ストーリークリア
はじめに
だいぶご無沙汰な更新であるが、今回は久々にゲームレビューを上げていこうと思う。
この度取り上げる作品は「十三機兵防衛圏」で、名作と謳われるヴァニラウェアの作品だ。
ジャンルは……AVG兼SLGのようなところだろうか。
本作品は、ヴァニラウェア特有の繊細なドットによるグラフィックと、ストーリーが特徴だ。
それは巷で言われるような「緻密さ」よりは「伝え方」に拘りを感じた。
このこだわりは、本作特有といってもいいくらいのものだった。
前置きはさておき、本作のレビューを始めていこうと思う。
3つのパート
本作には、3つのパートが存在する。
詳しくは公式サイトを見てもらうのが早いと思うが、ざっくりいうと、
「AVGパート」「戦闘パート」「ゲーム内辞書/辞典」の三種類がそれに相当する。
これらの「パート」は、完全に独立したモードとしてゲーム内で区切られている。
AVGの途中に強制的に戦闘パートが挟まれることは無いし、その逆も然りだ。
流石に事実上のソフトキャップ的なものはあるが、制限はかなり少ない。
ゲーム内辞書は独立したモードというよりは「辞書」なので、体感としては2種ではある。
なので、AVGの合間に都度戦闘するとか、そういった形で進めていくこととなる。
辞書はそれらのモードのクリアに合わせて順次解放されていく。
3つのパート、というと迷ったりとっつきにくそうな印象はあるだろうが、
本作は事実上「いつでも戦闘できるAVG」か「いつでもストーリーが読めるSLG」である。
そういった意味で、革新性はそこまで高くないし、自由度もそこまで高くはない。
なのだけど、プレイヤーに選択肢があるというのが重要である。
ゲームとは選択あってのものなのだから、ストーリーの進め方を選べるのは気分がいい。
本レビューでは、各パートの評価とそれらがもたらすシナジーに基づいて評価していく。
AVGパート:美しいグラフィック・伏線と表現
本項では、主にAVGパートについて書いていこうと思う。
ここでは、グラフィック面と伏線の張り方の二点に注視して評価をしていこうと思う。
美しいグラフィック
AVGパートは、ヴァニラウェア特有の美しいグラフィックがまずは目に入る。
やはりドットとしては最高峰であるのは疑いようがなく、とても凝っている。
そして、ヴァニラウェア特有の人を選ぶプロポーション的なものもやや控えめである。
そういった意味で、グラフィック面は多くの人にとって、とても評価できる点であろう。
といっても、これは「芸術的価値」としての評価である。
「ドットだから効果が高いのか?」というと、別にドットである「必要性」はない。
ドットならではの奥行きの薄さを使ったミスリードや、
ドットならではのディティールを省略できることによるミスリードなどは無かった印象だ。
「伏線」と「表現」
本作において、ストーリーは多くの人に評価されているところだろう。
本作には大量の伏線が仕込まれており、それらが終盤にかけて次々と回収されていく。
そういった伏線の張り方はとても見事なものであった。
……と言いたいところだが、これは半分はその通りであり、半分はそうではない。
というのも、本作の伏線は割と「雑」で「ありきたり」だからだ。
こういった類のストーリーに詳しい人であれば、そこまでの革新性はないと思うだろう。
だが、表現方法に関して言えば、とても高評価出来る内容だ。
プレイヤーはゲーム的に能動的に動きながらストーリーを進めるから、紙芝居ではない。
本作ではキャラクターごとの視点を切り替えて攻略していくから、選択肢がある。
だから、プレイヤーが「進めている感」は、AVGパート単体で見てもとても強く感じる。
総じて、本作のAVGパートは「普通」だが「プレイ中は素晴らしく感じる」構成である。
そういった意味で、個人的な評価は高い。
ゲーム内辞書:推理への動機づけ
次に、ゲーム内辞書の位置づけについて評価していこうと思う。
本作には前述のようにゲーム内辞書が存在し、AVGパートの進捗とともに更新される。
そして辞書は、戦闘パートで手に入るポイントを利用することで解放も可能だ。
そう、ゲーム内辞書は「理解度の促進」であると同時に「推理への動機づけ」である。
プレイヤーは、AVGパートが終わったら気になったワードを調べて参照する。
プレイヤーは、「これは核心に迫る内容であろう」というワードを「推理」して解放する。
この存在が、ゲーム全体の「味わい」を引き締めている。
AVGだけだったら、なんとなくで理解を放置してさらにストーリーを進めてしまうだろう。
戦闘だけだったら、戦闘をそのまま一つのコンテンツとしてしか消化しないだろう。
相互に絡み合い、そして能動的なユーザの「推理」を実現する手段になっているのだ。
マニアがゲーム外で行ったり、ミステリ小説好きが頁を捲るのを止めて行う「考察」。
これを、ゲーム的な要素で自然と誘導するのがこの辞書であり、役割を強く全うしている。
一つ批判するならば、あまりにもこのゲームは「ミスリード」を狙いすぎている。
それは、ゲームの性質上仕方ないところはある。
理解できるようなストーリーを、登場人物ごとの視点で、なんとか収束させる必要がある。
だから、明らかにミスリードを誘うため「だけ」の事象があったりする。
こういったところを鑑みて、前の項目で述べたように「雑」だと言わざるを得ない。
辞書を解放したところで、本当にどうでもいい情報が解放されたりするのだが、
これも「推理」をさせたいがために用意せざるを得なかった「ハズレ」の要素であろう。
総合的に見て、これは仕方のないことであるし、それを鑑みても評価は高い。
「ストーリーの雑さ」は「ゲームたらしめるため」の必要悪だからだ。
これが無くてストーリーが完璧だったとして、それなら推理小説を読んだ方がいい。
本作の特異性は、プレイヤーが自由な方法で推理を自然と進めだす導線にあるからだ。
それが出来ない私のようなユーザでも、それをやってしまう構成に価値があるのだ。
戦闘パート:シンプルなSLG
最後に戦闘パートだが、これについてはあまり語るところがない。
正直言って、戦闘に戦略性はあまりないし、ビルド的な要素にも戦略性はあまりない。
適当に戦闘していれば適当に終わるし、難易度はかなり低い。
このモードについては、単体で見た場合は正直出来はイマイチだと考える。
本質はシンプルなターン系のごり押しバトルなのだが、無駄に複雑だ。
ただ、本モードはいわば「追体験」であり、「辞書の解放のための要素」だ。
だからこのモードの出来がどうであろうと、正直あまり評価には影響しない。
まあ強いて言うならば、演出に振るとかもっとシンプルにしてくれてもよかったが。
総評
奥が深いと思いきや、奥は深くないストーリー。これでいいの?というオチ。
無駄に複雑で、奥行きのない単純な戦闘パート。
ゲーム内辞書に散らばるダミーの解放要素と、雑なミスリード。
これだけ鑑みると、ただのクソゲーだ。だけど、実際はそうじゃない。
これらの要素をそのまま評価するのではなくて、これらのシナジ―こそが本質だからだ。
AVGでミスリードに釣られ、ストーリーに興味を持つ。
普段ならそのまま深く考えずに進めるような人でも、辞書解放という「推理」を始める。
推理をしたいがために戦闘パートを進めるが、流れる寸劇が今はまだ理解できない。
そうやって、プレイヤーをどんどん推理に追い込んでいくという、「導線」に価値がある。
だから本作は、これらを誘導させるための造りがとても優れているゲームである。
決して、要素一つ一つを減点方式で評価してはいけない。
ゲームならではの体験ができるAVGを探しているなら、この作品はかなりおすすめだ。
といったものの、個人的にはそもそもAVGがあんまり興味ある方ではない。
そのため、点数は低めに見積もっているが、そんな私でも最後までプレイ出来た。
そういった意味で、AVG好きにはかなりの良作として映るだろう。
ただ、これは想像でしかないが、「ホンモノ」の考察好きには少し物足りないかもしれない。
このゲームは、「ホンモノ」が自然とやることをやらせてくれるだけ、に思えるからだ。
そういった点を踏まえても、かなりの良作であることは間違いないが。
個人的お勧め度: ★★★★★★★✩✩✩(7/10)
[追記]
私はAVGは本当に苦手で、クリアまで行くことがほとんどない。
なので、AVGに抵抗がない人には上記点数よりかなり上で見積もってもよいはずだ。