文字通りのジェネリックソウル ― Lies of P(レビュー)
ホンモノに近づき過ぎたがゆえ。
[タイトル]
Lies of P [公式サイト]
[対応ハード] ※★でプレイ
★PC / PS4 / PS5 / XBox One
[プレイ時間 / 進行度] ※レビュー時点
20時間 / ストーリークリア
はじめに
死にゲーといえばフロム、フロムといえば死にゲー。
それ即ち、ダークソウル……ソウル系という金字塔。
今回レビューするのは、そのソウル系に強い影響を受けたLies op Pだ。
「嘘をつく」ことがいわゆる「人間性」みたいな解釈をしており、
ピノキオをベースとした、ダークかつどこかメルヘンな雰囲気のあるACTだ。
本作のキモは、ソウル系に課せられた「期待」や「常識」をどう処理したか、だろう。
多くのソウル系は、本家との比較という高すぎる期待という業を背負っている。
そして、ソウル系というジャンルが、多くの「常識」で縛ってくる。
その結果、「中途半端」なゲームや「期待外れ」が多く存在するジャンルとなった。
本作は、それらを打ち破ることはできたのだろうか。
彼らの「独自性」とは何だったのか。
そういったところを踏まえ、レビューしていこうと思う。
ダークファンタジー、ブリキ、ピノキオ
本作の世界観は、ダークファンタジー*スチームワークといったところだろうか?
実は、「ピノキオ」的な「嘘」や「童話」的な要素はそこまで強くない。
ピノキオとは構築物であり、生命と構築物の差異は「命令」にある。
ロボット三原則的な、そういう世界観がどちらかというと近いだろう。
ゲームシステムとして、「嘘」は確かに存在する。そして、ストーリーにも絡む。
なのだけど、「嘘」「ピノキオ」「スチームワーク」には強い繋がりはない印象だ。
とはいったものの、ただの「ロボット」では愛着も雰囲気も使い古されている。
それに、ダークファンタジー的な描写から、SFへと変化してしまうきらいもある。
そういった意味で、ゲーム全体の整合性としての破綻はない。
だから、世界観に関しては、そのまま想像したものが来た、という感じだろうか。
大きく劣っていることもなく、普通に「良作」だなぁ、というところだ。
統一感もあるし、描写が悪いわけでもない。だけど、良作止まり。
圧倒的な描写や世界そのものを感じるような深みまでには至れていない。
とはいえ、統一感のある描写があるソウルライク自体少ないので、出来は良い。
「引き」で見た時の差
本作の世界観そのものは、良作という話をした。
じゃあダークソウルと比較して何が違うのだろうか?
答えは、ミクロで完結していてマクロに波及していない、という点だ。
攻略エリアを「ズームアウト」して差分を見ていこう。
「部屋」レベル:特定の通路、特定の部屋
ダークソウルでは、特定の通路や特定の部屋における「いやらしい敵配置」が有名だ。
目の前にアイテムがあったと思ったら、死角に敵がいる。
こういう「トラップ」が、攻略における緊張感を生み出していた。
大半のソウルライクは、このような敵配置が出来ていない。
雑に敵を大量に配置し、雑に押し切ることで「高難度」を「演出」している。
そしてLies of Pでは……なんと、本家並に敵配置が上手く感じた。
ソウルライクをひたすら研究し、ちゃんと攻略していたのか「面白く」なっていた。
ショトカも適切だ。分かれ道の数もちょうどいい。ちゃんと、ソウルライクしていた。
これはソウルライクとしては相当珍しい部類であり、非常に評価できる。
「エリア」レベル:一つのエリアとしての整合性
ここでいうのは、一つのエリアで訪れる領域について、整合性があるかだ。
例えば、「正協会が中央にある」「脇に廃協会がある」「廃協会の地下と正教会が繋がる」。
こういう要素がエリアにあると、そのエリアの背景が感じられ、解像度が上がる。
こういった面で、本作は「やや惜しい」。本作には、例えば工場のエリアがある。
それは、「排水路」「組み立て工場」「外周」で構成されている。
そこまで違和感のある構成要素ではないのだが、見せ方やつなぎ方が惜しい。
全てのエリアが割と狭い部屋などで構成されており、相互に干渉していないのだ。
だから、部屋としては違和感はないのだけど、引きで見た時の繋がりが弱い。
攻略中に、「こういう建物なんだな」という納得感が感じられない。
例えば本家であったら、こんな表現をしたんじゃないかと思う。
- エリアの攻略順や見せ方
- 排水路を攻略させ、素材を加工しているところを見せる
- 排水路から組み立て工場に出る
- 組み立て工場の外にある廃棄場に出る
- エリア同士の見せ方
- 最初に工場を引きで見せて、上記の要素を目に入れさせる
- 実はベルトコンベアが全てのエリアの中にあって、ショトカ開通すると作業工程を舐めるような形で開通される
本家は、こういう感じの視点を入れることで、ユーザの中で「繋がる瞬間」を作っている。
本作には、これらの要素の片鱗は存在している。なのだけど、それが繋がらない。
工場の全体像は見せている。だが、工程が意識できるような眺望ポイントになっていない。
それぞれの部屋の意図は分かる。だが、ほかの部屋とどう繋がっているかわかりにくい。
ショトカで部屋の横断はする。だけど、ただの扉すぎて繋がりが薄い。
こんな感じで、やろうとしていることは分かるし、パーツもあるのだけど、やや物足りない。
別のエリアでは、大きなモンスターが最初に中央から落下し、ひたすら降りるものがあった。
なのだけど、「自分が今どの高さにいるか」を、見せてくれない。
中央の穴を大げさに見せるような眺望ポイントを合間挟むだけで大分違うのだが……。
そういった感じで、とっても惜しい。本当に惜しい。
だけど、それでも一般的なソウルライクと比較し、出来自体はよい。望みすぎともいえよう。
「世界」レベル:エリア同士の繋がりの説得性
ソウルシリーズでは、エリア同士の繋がりも非常に強いものだった。
例えばどんどん地下に潜ったらそれは地の底に近づいたエリアになるはずだ。
そういう、「地理的な当たり前」や、背景ストーリー的な要素を感じられた。
まあこれはダークソウル2で、あまりの整合性のなさで批判された要素でもある。
そのうえで本作はというと、ダークソウル2にやっぱり近い。
いや、ブラッドボーンが近いかもしれない。
なんというか、驚きや繋がりが薄いのだ。
本作は、「この世界観にこのエリアがあるのは違和感ない」のがベースになっている。
登場エリアはある程度多彩なのだけど、ただ違和感がないだけで驚きがない。
ダークファンタジーには毒沼はあるよね。
ダークファンタジーに病に狂った街はあるよね。
ダークファンタジーに壊れた聖所はあるよね。
そういう感じのエリアが、継ぎ接ぎされて繋がっている感じだ。
毒沼の先に何故この場所があるのか、が感じにくい。
エリアの繋がりにある「必然性」みたいなのが、あんまりない。
という感じで、総合して「惜しい」が「高評価」という形だ。
ソウルライクとしては明らかに上位数%の出来だ。
だけど、ここまでくるとやっぱり本家と比較したくなってしまう、という感じだ。
ちなみに、ラストダンジョンだけはここでいう「エリア」レベルで完成されていた。
このエリアだけで見たら本家に出しても遜色ない出来だろう。
そんなエリアがあるだけで、普通に「かなりの良作」といって差し支えない。
ソウルライクアクション
本作のアクションだが、ほとんどソウルライクといってよい。
大きく違うのは、致命が気持ちいいことだ。
これは、正直かなり評価が高い。
適切な敵配置、適切なボス難易度、適切な操作性。
それをちゃんと踏襲していながら、致命の気持ちよさを上乗せしている。
このあたりのアクション性は期待したものを裏切らない出来だろう。
ここまでソウルライクで成したゲームはほとんどない、と言っていい。
欲を言うなら、本当にソウルライクすぎて独自性が薄いところだろうか。
だが、完成されたアクションに付加価値を付けただけで及第点は遥かに超えている。
総評
ミクロで見た時の、圧倒的完成度。
ちゃんとしたアクション。本家並の敵配置。適切な攻略難度。
多くのソウルライクが成し得なかった、ソウルライクの「基本」。
これらを兼ね備えた、真のソウル”ライク”といってよいだろう。
なのだけど、ここまでくると比較対象は「本家」だ。
本作は本家と比べてしまうと、やはりマクロで見た時の差が歴然だ。
だから、どうしても「残念」な感じが全面に出てしまう。
言うなれば、これは「ジェネリックソウル」なのだ。
それは侮蔑ではなく、称賛だ。
「ソウル」の領域に踏み込むことが出来た、という「栄光」だ。
本作にダークソウルを期待すると、やはり差を感じるだろう。
だが、ソウルライクを期待するなら、これは100点を遥かに超える。
本家を意識しすぎているのもあり、評価は難しい。
文字通り、「ジェネリックソウル」が最も適切な表現なのが歯痒い。
が、それより適切な表現がないのもまた、事実だ。
個人的お勧め度: ★★★★★★☆☆☆☆(6/10)