
驚天動地のカプコンスペシャル ― MONSTER HUNTER WILDS(レビュー)
学びなき拡張。
[タイトル]
モンスターハンターワイルズ [公式サイト]
[対応ハード] ※★でプレイ
★steam / PS5 / XBox XS
[プレイ時間 / 進行度] ※レビュー時点
50時間くらい / ストーリークリア
はじめに
驚天動地の狩りがくる。
この日を待ちわびた人は大勢いるだろう。
PSPで爆発した、重厚なアクションゲーで知られるモンハン。
その最新作となれば、期待もとんでもなく大きい。
連日情報が発表され、連日ユーザに議論され……ついに発売された。
ではその出来はどうだったのかというと……なんともいえない。
高すぎる期待に応えられたのかどうか、見ていくとしよう。
ストーリー・演出
モンハンシリーズのストーリーと言えば、「意味不明・陳腐・つまらない」だろう。
ストーリーに期待している人はほとんどいない気もするが、本作は力を入れているようだ。
そして実際のプレイフィールとしては……気合入ってるな、という感じだ。
ストーリーは、基本的にはムービーゲーや一本道ゲーに近い構成になっている。
強制移動によりマップを練り歩き、ムービーが流れ、ちょっとした戦闘を挟む。
そういう、「ストーリー重視の高画質ゲー」な仕上がりになっている。
これは、賛否両論あるだろう。
ただ個人的には、このストーリーの進め方についてはそこまで否定的ではない。
むしろ、ちゃんと「ストーリー要素がある」という分には、好印象だった。
ストーリーでフィールドのお披露目をし、あとで自分で探索する。
そういうリズムでプレイする分には、大きな不満要素はなかった。
また、「ストーリーがあるからプレイする」という「理由付け」としては十分すぎる。
内容についても、「モンハンっぽい」かつ「攻めた」内容になっているかと思う。
というのも、今回のストーリーは主にキャラクターの心情にフォーカスしている。
直接的な表現は避け、事象や行間で語る感じの展開が多くみられたように思う。
その上で、オチはとても「モンハン」的だった。
生態系と人間のエゴ、みたいないつものテーマを「それっぽく」落とし込んでいた。
そういった意味で、プレイする理由としては十分だし、評価できる。
ただまあ、これを目当てにするにはやや陳腐ではあるのは確かだが。
世界観・マップ表現
本作の開発がこだわっている部分……それは間違いなく世界観だろう。
よく練られた生態系やマップ構造。これらを期待するのは当然だろう。
なのだけど、本作のこれらは、明らかに「足りない」。
生態系
モンハンの生態系は、裏設定や実際の演出も含め、MHWでかなり進化した。
ここについて、本作は正統進化したのかというと……逆に退化したように感じる。
というのも、本作の生態系には「説得力」がない。
これはとても抽象的な話になってしまうのだが、「それっぽさ」がないのだ。
例えば、最初のマップは砂漠だ。
広大な砂漠のフィールドと、やや緑がある平原のフィールドで構成されている。
登場するモンスターは、「巨大な蛙」「巨大な鳥」「熊」などだ。
それらを統べる生態系の頂点は……雷を操るドラゴンだ。
これが、なんというか……説得力がない。
プレイヤーがゲームから受け取る情報として、やっぱり「砂漠」というのが大きい。
そして、ほかのモンスターはまあ砂漠に居てもそこそこ納得感はある。
何故、雷を操るドラゴンが頂点なのか?
何故、雷要素がいきなり出てくるのか?
他のモンスターは、雷という土俵で全く戦えないようなモンスターなのか?
そういった疑問が出てきてしまい、どうしても「納得感」がなくなってしまっている。
旧作であるMHWにおいて、高低差が激しい「陸珊瑚の台地」を挙げてみよう。
生息するモンスターは色合いが青っぽいものが多く、背景とマッチする。
そして、頂点は飛行モンスターとなっており、これまたマップとマッチする。
立体的なエリアでは、飛べる奴が強いに決まってる。
飛べる奴の中でも、より高層を根城にしてるやつのほうが強いに決まってる。
そういう「それっぽさ」が、ワイルズの生態系には感じられなかった。
マップ・オープンワールド化
モンハンのマップも、MHWにて大きく進化(諸説あり)した部分だ。
MHWでは、説得力のあるマップにはなったものの、ゲームとしては複雑であったが。
そして本作はというと……いいところがあんまりない。
というのも、大きく二つ理由がある。
一つは、マップの中での説得力がないこと。
もう一つは、マップの外での説得力がないことだ。
一つ目の「マップの中」については、そのまんまの意味だ。
MHWにおいて、マップは「一つの生態系の集まり」であった。
洞窟であればひたすら奥に。そして奥はよりおどろおどろしく。
木であればひたすら上に。そして上は素晴らしい景観。
そういう、マップの中に成立するコンセプトがあった。
だけど本作は、マップ単位で見た時のコンセプトが薄い。
それも、MHWのものをあえて「平面に崩した」ような造りになっているからだ。
高低差はあるものの、結局は平面的に表現されてしまっている。
ゲームとしては確かに平面である方が分かりやすいのは確かだ。
だが、一つの探索できるエリアとしては少し淡泊だ。
なんというか、MHXX以前のようなマップに戻ったな、という感覚だ。
そしてもう一つの「マップの外」だが、これは「マクロでの説得力」になる。
以前「Lies of P」のレビューで記載したが、「マップ同士の繋がり」の話になる。
例えば、「砂漠のすぐ横に平面的に緑豊かな地がある」のは、説得力があるか?
本作のマップはバリエーション豊かなのだけど、繋がり方に説得力がない。
すぐ隣にそんなエリアがあるはずがない、とどうしても思ってしまう。
そして追い打ちをかけるように、眺望ポイントが極めて少ない。
そのため、エリア同士が「繋がっている」のに、「繋がっていない」ように感じる。
MHWにおける「瘴気の谷」と「陸珊瑚の台地」は、「繋がっていない」が「繋がっていた」。
ただマップをつなげればいい、というものではない。そう感じざるを得なかった。
総じて、このあたりの表現はMHWから大幅に劣化したと考えていい。
更に言うと、本作では「なんでもあり」な要素が実は存在している。
そのため、もはや生態系や世界観に説得力は一切ない。
ただ、良くも悪くも「ファンタジー」としては、とても良く出来ている。
見るたびに大きく景色が変わったり、ハチャメチャなドラゴンが出てくる。
これは心躍るし、とても鮮烈な体験ではある。
ファンタジー路線に切り替えるのなら問題はないが……。
生態系の作り込みをウリにしているのであれば、方向性がおかしい。
良い意味で「スケールダウンした」アクション
モンハンシリーズの醍醐味として、重厚なアクションがある。
やりごたえがあるアクションが魅力の一つであり、本作も例外ではない。
ワイルズのアクションは、そこそこ良く出来ている。
ただ、評価がすごく難しい。
ある面で見れば良く出来ているし、ある面で見れば先がないのだ。
敵モーションの回帰と、攻略性の回帰
本作において「よい」と思った面は、敵モーションが「戻った」ことだ。
「戻った」というのは、「高速化」や「広範囲化」が、緩和されたという意味だ。
モンスターの攻撃判定は、とてもしっかり練り込まれている。
ちゃんと「攻撃部位」にしか発生していないがゆえに、回避方法を想定しやすい。
その上で、軸合わせなどもそこまで強烈ではない。
モンスターの攻撃硬直も、とても良く出来ている。
攻撃後の隙の長さは割と適切だし、異常なほど動き回る敵は少ない。
だから、副次的にマップの狭さもそこまで気にならなくなった。
これらを踏まえると、「ヒットアンドアウェイ」にある程度回帰している。
そして、それらを実行するためのモーション理解が、直感的になった。
攻略のプロセスが分かりやすく、実行しやすく、効果が出やすくなった。
割と、2ndgとかそのあたりに近い動きになっている感じだ。
旧作をブラッシュアップしたような動きになっていて、とても面白い。
敵は回帰したが、自分は進化しているということ
敵のモーションはすごくいい。攻略しがいがある。でも、自キャラはどうか?
それでいうと、自キャラはもう進化しっぱなしだ。
アクション数は無駄に多く、操作は無駄に複雑。そしてなんでもできる。
大半の武器は、ジャスト系の防御モーションがある。これはほぼ無敵に近い。
大半の武器は、大技・中技・小技が揃っている。
大半の武器は、苦手な要素がほとんど改善されている。
その結果、どの武器でも同じことが出来るようになってしまっている。
これはゴッドイーターで似たようなことが発生しており、既視感が強い。
なんでもできるということは、武器のコンセプトが消えるということになる。
敵のモーションは、旧作のように「丁寧な位置取りと見切りを必要とする」ものだ。
それなのに、自キャラは「カウンターでもなんでもok」になっている。
これでは、パワーバランスにつり合いがとれていない。
結果、せっかく丁寧に攻略できるモーションなのに、雑に攻略するゲームと化した。
これは「難易度の低下」というより、「アクションのコンセプト」に係る問題だ。
敵をタフにしたり、攻撃を苛烈にすればいい問題ではない。ちぐはぐなのだ。
だから、「先がない」と表現した。
安易に難易度を上げることは可能だろうが、面白い難易度の上げ方にはならないだろう。
敵に合わせるなら、ハンター側のアクションをもっと尖らせるべきだと感じた。
総じて、アクションの設計に問題があるように感じた。
確かに面白いのだけど、設計に一貫性がない。
とはいえ、いわゆる「取り残されている武器」を使えば、楽しめる。
ジャストアクションに依存しないような、そういう「弱武器」を使うのがいい。
そういった武器は、良質な敵モーションを攻略する良ゲーとして楽しめるはずだ。
これを、プレイヤーが自発的に行う難易度設定と取るなら、アクションは面白い。
いい意味で「スケールダウン」したアクションとして楽しめるからだ。
ただ、「複数武器で攻略方法を変えて楽しむ」という過去作のアプローチは難しい。
集中モードという、カプコンスペシャル
ついでに、集中モードについて言及しておこう。
集中モードは、本作で追加された「カメラエイムによって攻撃をエイムできる機能」だ。
これは、なんというか……とてもカプコンっぽいな、と思った。
というのも、集中モードで得られる主な内容……攻撃の方向転換は、
集中モードがなくても、方向転換の角度を緩和すれば問題なく達成できるからだ。
この「無駄に操作を複雑にする」というのが、とてもカプコンらしい。
結局、「慣れ」で操作は解決する。
でも、プレイヤーが「慣れ」を手にしたら、もう何も生み出さない。
なら、最初から「慣れ」を必要としない方法で実装したほうがよいではないか。
まあこれは、価値観ではある。
私は、「駆け引きを生まないシステム」は「ノイズ」と捉える傾向にある。
だが裏を返せば、集中モードは「慣れ」を習得できるという「成長の余白」でもある。
その上で、これはFPSプレイヤー向けの補助輪でもあるのだろう。
だから、個人的には「要らない」が、「慣れればいいじゃん」という感じだろうか。
といっても、この「360度方向転換」により、方向調整の駆け引きは消えた。
回避方向、攻撃方向に係る攻略が消え去ったも同義なのだ。
そういう意味では、「なんというかこれいるのか?」……と感じてしまう。
ちなみに傷については、メリハリの面で良く出来ていると思う。
こちらについてはそこそこ気分がよく、それなりに評価している。
致命的なまでの気持ちよくなさ
最後に一つ、致命的な要素に触れておく。
それは、まったく気持ちよくないということだ。
本作のヒットストップ、SE、攻撃エフェクトは「気持ち良くない」。
これはもう本当に致命的で、ゲームをやる理由が大きく削がれている。
過去作と比べ、最低レベルの気持ちよさだ。
これでも改善したらしいが……本当にここは残念だ。
気になった人は適当に超開放の動画でも見てほしい。
グラフィックの悪いサンブレイクよりも、何故か爽快感がない。
なんというか、こういう細かい点もそうなのだが。
「昔はよかった」ものを、作り直して「ダメ」にすることが多すぎる。
そしてその上に追加要素をただ拡張するから、バランスがおかしくなる。
取捨選択をせず、ただ要素を追加して、ただ要素を作り直す。
そこに確固たるコンセプトが無いから、めちゃくちゃになる。
なんというかいつものカプコンスペシャルだなぁ、と感じてしまった。
総評
やりたいことと、出来上がったものが異なっている作品。
やりたいことは分かる。でも、ユーザにちゃんと届けられていない。
なんというか、コンセプトがはっきりしていないゲームだな、と感じた。
ミクロの単位だと、良く出来ている。
モンスターのモーション。マップの1エリア。装備デザイン。
でも、それを繋ぎ合わせると……コンセプトがバラバラだ。
巷ではボリューム不足が囁かれているが、これについては割愛する。
というのも、DLCでどうせそこそこにはなるだろうからだ。
そして、この「ボリューム不足」は、50時間くらいまではあまり感じないだろう。
私も「ボリューム不足」と感じた。だが、それは「攻略する気が起きない」からだ。
純粋に気持ち良くないゲームだし、リプレイ性が低い。
だから、コンテンツをしゃぶりつくす気にならない。それだけだと思っている。
総じて、期待に反する出来だったと思う。
ただ、集中モードに要求される「慣れ」など、そういった面を考えてみても、
本作は「ストーリーを一通りクリアする」までに力を入れているように思った。
その範囲であれば、大きな不満は感じないだろうし、普通に楽しめるはずだ。
重厚なアクションを、ひたすらやり込むゲームとしては不十分なだけだ。
だから、どう捉えるか、だと思っている。
私としては、G級のない一作品目だし「サクッとストーリー」としては楽しめた。
エンドコンテンツ含めた出来については、G級に期待するとしよう。
個人的お勧め度: ★★★★★☆☆☆☆☆(5/10)