“表現そのもの”に人権がない

最近、(元)プロゲーマーのたぬかな氏が問題発言で炎上しましたね
ざっくり言うと「身長170cm以下は人権が無い」と言った結果、差別だと燃えたようです
格ゲーマーなら世間との温度差に少し戸惑っていることかと思います

今回の件について、僕も思うところがあるので「お気持ち表明」したく存じます
なお、私は件の人物を擁護するつもりも非難するつもりもありません
プロという公の人なら、それを判断するのは大衆であるべきだからです

 

人権がない

人権がない、とは格ゲー界隈(というかゲーマー界隈?)のスラングで、
対象が「非常に弱い」とか「スタートラインに立てていない」という意味合いになります
例えばキャラ差の強いゲームでは「人権がないキャラ」のように使われることがあります

もともと格ゲー界隈は、煽り合いが文化(?)としてあります
お互いが冗談だと理解した上で、あえて強い言葉を使って相手を煽るのです
平たく言えばプロレスみたいなものですね

当たり前ですが、今回の発言は「本当の意味での差別意識」を持ったものでは無いでしょう
結局は「身長170cm以下は恋愛対象外」ということを言いたかっただけで、
「自分の中ではスタートラインに立っていない」という意味で「人権」と表現しただけです

今回の件は、その「人権」という表現の対象がリアルの「人」に掛かったのも一因でしょう
とまあここまでは当たり前の解釈なので、何も面白くはありません
ということで今回は「何故燃えたか」についてお気持ちを深く書いていきます

 

火種を生み出す原因

火種を生み出す原因は、「思考コスト」にあります
「思考コスト」とは、そもそも「考えるつもりがあるか」という意味合いです
思考における「能力」ではなく「意思」を定義していると考えてください

思考コストを支払うつもりのある人は、今回の発言を聞いてこう考えるでしょう
「際どい発言だけど、流石にこれは冗談である“はず”だ」、と。
文字通りの意味で情報を解釈するはずが無いんですね

ですが、思考コストを支払うつもりがない人は、今回の発言を「文字通り」解釈します
だから、それがスラングであるかどうかなどは考えもしません
その結果、文字通りの「人権」と解釈して「差別」と考える訳ですね

 

火種はどこにでもある

これを読んだ格ゲーマーはどう考えたでしょうか?
叩く前に文化圏の情報くらい調べてから叩けよ、って思いましたか?
一般的な格ゲーマーであれば、そのような反応も珍しくは無いでしょう

ですが、この感覚が意外と「罠」なのです
基本的に「人間は思考コストを払いたくない」ものである、と以前の記事で書きました
思考コストが有限であるがゆえに、思考コストを支払う対象を選定するのです

対象の選定をした結果、基本的には「興味」に合わせてコストが決まると考えます
だから、興味の無い界隈であれば思考を極力避けるのは当たり前なのです

そして、SNSは「自己主張」の場です
リツイートとは、そのツイートを通した「お気持ち表明」のシステムです
皆さんも、自分の主張の為に軽い気持ちでリツイートしたことがあるのではないでしょうか?

裏を返すと、情報化社会においては必ず「誰かの無関心」に該当してしまうのです
それは僕も例外ではないし、「人権問題」と捉えた乙武氏のような著名人もそうです
全ての人が、何かしらのジャンルに対して必ず「思考放棄」をしています

火種は悪意ではなく、お気持ち表明なのです

 

何故燃え広がるか

では火種が出来たとして、何故燃えるのでしょうか?
それは簡単で、関心がある人より無い人の方が多いからです

1割の興味がある人は、ちゃんと考えて/調べてから解釈します
1割の”一切”興味がない人は、何も調べずに文字通り解釈します
残りのちょっと興味がある人は……大多数の解釈に乗っかる形で事象を評価するのです

調べるほど興味がある訳ではないし、調べずに評価するほど適当ではない。
であるのなら、落としどころは「多数決」の原理でしょう
だからこそ、これは最も省エネで正しい解釈のようにも見えます

ですが、ここに問題があります

 

多数決は「正義」にはなり得ない

この決定システムは、多数決が正しく行われる必要があります
ですが、それが正しく行われることがまずないのです

まず、「擁護」のリスクリターンが非常に劣悪です
擁護するには状況を正しく把握する労力が必要なのに関わらず、リターンは皆無です
そもそもの発端が「思考コストの放棄」なので、それを肩代わりしないといけないんですね

逆に批判は非常に楽です
文字通り解釈すればよく、火種という「先駆者」に倣うだけでいいのです
人類が「噂話」を好む性質からして、リターンも非常に大きくなります

つまるところ、こういった話は必ずマイナス方向の情報にインセンティブが働きます
結果として、「少し興味がある8割の人」が否定方向に偏ってしまうのです
発端は違うものの、ポリコレについても同じような構造かと思います

 

おわりに

結局、「少し興味がある人」が見かけ上の「多数派」に乗っかるという構造かと思います
初期の言説が擁護派ばかりであったら、多数の人は擁護に回るんじゃないでしょうか?
“真の意味”で批判しているのは本当に僅かなのではないでしょうか?

例えば賭博ポーカーであったり、トレパクであれば法律に触れます
こういった内容は、指針がはっきりしているが故にポジションは取りやすいでしょう
ですが、こういう「言論」に関することについては、驚くほど「雰囲気」で評価されます

 

今回の件で、「流石に受け取り側が冗談って思うでしょ?」って考える方もいるでしょう
そういった立ち位置で今の「思考放棄型ネット社会」で成功を収めるのは困難だと思います
昔のネットに思いを馳せ、狭い範囲で割り切って活動すると良いかも知れませんね

今の時代、必ずや誰かの「無関心」という名の「思考放棄」に晒されるのです
それは悪意でも能力でもなんでもなく、仕組みとしてそうならざるを得ないのです
少しでも毒を盛ってしまったら最後、想定通りの解釈がされることはありません

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