
迷子の子守は戦略になりますか? ― 剣と魔法と学園クエスト。(レビュー)
起こるべくして起きた破綻。
[タイトル]
剣と魔法と学園クエスト。 [公式サイト]
[対応ハード] ※★でプレイ
★PC / PS4 / nintendo switch
[プレイ時間 / 進行度 ] ※レビュー時点
10時間弱 / メインストーリークリア
はじめに
今回紹介するのは、「とともの。シリーズ」のスピンオフ作品だ。
該当シリーズは、wiz系のソースコードを流用を継いだ「ライト系drpg」シリーズだ。
だが、本作は打って変わって「rts風タクティクス」みたいな内容となっている。
本作品は、ジャンル的にはそこそこ意欲作である。
全てが噛み合えば「重厚なシミュレーション」になるポテンシャルを秘めているのだ。
それだけに、体験版時点で微妙感はあったものの、お布施の気持ちで手に取った次第だ。
ということで、本作は理想のシミュレーションになったのだろうか?
パーティーメイクRTSマスゲー
いろいろ細かく見る前に、さらっとゲームの説明をさせて欲しい。
本作はパーティーメイクゲーであると同時に、rts的なマスゲーである。
パーティーは、いくつかの職業とサブクラスの組み合わせで6キャラ作成する。
rtsなマスゲーと言ったが、これは公式のムービーを見るのが手っ取り早い。
戦闘は「将軍」である主人公と、パーティー6名で展開される。
将軍は攻撃性能は無いが、周囲のエリアにパーティーメンバーを移動させられる。
パーティーメンバーは、職業別のaiにおいて自由意志で行動を行う。
戦闘では、時間経過でマナが回復する。
マナを使用することで、ユニットスキルである「魔法」や、ユニット強化が可能だ。
有限リソースをどう使うかで、戦闘の展開を支配出来るということだ。
どんな感じのゲームかと、メインの駆け引きについて説明したところで、本題に移ろう。
戦術は、そこにあるのか
正直に述べてしまうと、本作に大した戦術は存在しない。
それで終えてしまうと切ないので、詳しく解説していく。
潜在的には「RTS的要素」「マナ的要素」「マス的要素」に、戦略は存在し得るはずだ。
RTS的要素
これは、ユニットが自由移動することと、物理的な操作限度が駆け引きになり得る。
操作を頻繁に要求されるとか、自由行動のコントロールなどが該当する。
だが、本作にはこのような戦術は存在しない。
自由行動だが、本作のAIは通常型/攻撃型/防御型の3種類だ。
攻撃型は、将軍のエリアを離れて敵を追尾して攻撃する。
防御型は将軍のエリア内で行動を行い、通常型はやや攻撃型寄りにエリアを離れる。
だが、本作はどう足掻いても「本陣の周りで行動したほうが圧倒的に強い」のだ。
先行されると、基本的に自己回復が無い故に、普通に敵陣で即死する。
足並みを揃えない、という選択肢は正直言って存在しない。
だからこのゲームにおいて、最も多く要求される操作は「はぐれたメンバーの招集」だ。
攻撃型が、馬鹿みたいに敵陣に突っ込むのを本陣まで移動させる。
防御型が、敵を攻撃出来るように索敵位置まで移動させる。こういったものだ。
結局、本陣の周りにいてくれるようにコントロールする以上の戦略が無い。
そして、キャラの移動にはコストもゲーム時間も必要としない。
だから、ただ面倒以外の要素になっておらず、駆け引きもない。
マナ的要素
戦闘中に獲得できるマナであるが、獲得は基本的には「時間経過」だ。
使用先は「将軍(主人公)/各ユニットのレベル上げ」か「ユニットスキル(魔法)」だ。
ユニットのレベルは5まで上げることができ、魔法はざっくり1レベル分のマナを消費する。
これは、すべての要素が良い感じにバランスが取れているならば、戦略足り得る。
だが、大方の予想通り……本作のマナの使い道は割と「固定」だ。
まず主人公のレベルを上げると、マナの回復速度が大幅に増加する。必須だ。
そしてユニットのレベルを上げると、各種ステータスが大幅に増加する。主力は必須だ。
最後に魔法は……一部自己強化を除き、明らかにキャラクターのスケールに合っていない。
極めつけは、獲得が「時間経過」なのにも拘わらず、基本は潤沢に作戦時間があることだ。
放置できる場所で最大までマナを回復するのが、どう考えても万能すぎる。
だから、最早マナに関して正常な駆け引きが発生しているとは言えない。
極一部のステージでは、時間制限や放置が難しくなる仕組みが存在する。
だが、大半のステージは「リソースのやりくりを考えるなら放置する」のが大正解だ。
そもそも、リソースをやりくりしたところで消費先は固定なのだが。
というか、最重要リソースであるマナの供給を計算しているのかすら疑わしい。
普通に考えて、時間あたりの供給量と投資効果から逆算して時間設定がされるべきだ。
作戦時間設定が正解に掠ってすらいないのは、どう考えてもおかしい。
マス的要素
ここで言うマス的要素……とは、マスであるからこその戦略性だ。
例えば回復範囲とか、移動を含めた攻撃範囲とか、そういった「戦略的配置」を言う。
敵の攻撃範囲が正面4マスなら、そこを外した位置にしよう、みたいな話だ。
だが、やはり本作のマス要素に戦略は無い。
そもそも、本作はRTSでありつつ、キャラクターのターン経過は一律ではない。
キャラクター毎に行動速度があり、別の時間軸で行動を行う。
それぞれのキャラクターが別の時間軸で、しかも自由意志で行動するのだ。
当然、上記で言ったような細かい配置を維持すること自体がほぼ不可能に近い。
だから、かなり大雑把な「前衛」「後衛」みたいな配置になる。
更に最悪なことに、ボスの範囲攻撃の範囲がとんでもなく広い。
というか、範囲予告を見てもそもそも回避不能であることが多い。
であるなら、もうhpで受けてそれ以上の回復を施す以外の答えはあるのだろうか?
いやじゃあ想定の攻撃範囲外に本陣張ってメンバーだけボスを殴らせればよくない?
と思った貴方、非常に頭が切れる……が、そんなことは出来ない。
そもそも範囲外は往々にしてタゲを取ってくれないし、回復役に攻撃型AIはいない。
だから、よくて攻撃型AIが短期特攻するだけの形になる。
一応想定としては、「範囲攻撃の度に味方を撤退させること」なのだろうか?
ただ、それは「戦略」と言っていいのか?ただの作業ではないのか?
範囲攻撃の度に、キャラの出し入れを計12回もするのか?それでいいのか?
パーティーメイクに、意味はあるのか
本作の特徴の一つに、パーティーメイクが存在する。
これはパーティー内での役割分担をどうするか、というのが醍醐味だ。
もしくは、なんとなく妄想出来るというニッチな楽しみ方もあるだろう。
本作のクラスには、遠距離クラス/近距離クラス/回復クラスが存在する。
近距離クラスは、ボスアタッカーとして存在が必須だ。
遠距離クラスは、近距離クラスに比べ「移動させる」という手間が少ないが、弱めだ。
回復クラスは必須であり、何らかのアタッカーも必須だ。
まあその辺りは普通のバーティ―ビルドと同じで、好きなものを選べるバランスだろう。
そして、各クラスには4つの派生クラスがあるが……明確な「上位互換」の扱いだ。
これは事実上の「昇進」みたいなもので、戦術に合わせた転職のようなものではない。
このあたりを総合的に見て、パーティーメイク自体は「自己満足」の領域だろう。
……だが問題は、その「自己満足」要素に「自己満足」させる気が無い事だ。
カスタマイズできる要素は、男女2種類しか選択肢が無い。
キャラメイクを謳っておきながら、性別と名前だけしか選べないのは如何なものか?
一応、キャラの属性付け……みたいなものはあるが、ゲーム的な変化はほぼ無い。
これによってAIが変わるとか、成長傾向が大幅に変わるならまだ良かった。
だが、現状このシステムは文字以上の効力を発揮できていない。
それなら、固定メンバーで攻略させ、戦略要素に特化すべきではなかったか?
洗練不足の各種要素
ここまで酷評してきたが、酷評するだけの「理由」がある。
細かい各要素が、明らかに「練られていない」のだ。
どのような想定で遊んでほしいのか、考えが及んでいないようにも思える。
例えば、装備システム。
本作は、9回までお金で装備強化が可能になっている。
だが、数ステージ単位で装備更新されるのに、数ステージ分以上の金額を要求する。
例えば、装備のランダムエンチャント。
本作は、装備にランダムでエンチャントが付与される。
だが、その効果の大半は「無意味」なもので、有用なのは数種類だけだ。
例えば、スキルの数値設定。
本作におけるパッシブ/エンチャントスキルの設計はあまりにも杜撰だ。
「攻撃力を10%上げる」と「マナ上限を1上げる(素150)」に、選択の余地はあるか?
例えば、ステージの選択。
本作は、ステージを周回する際にもストーリーが流れる。
レベリングで周回を強要されるバランスなのに、テストプレイ的にokだったのか?
例えば、ステージギミックのUI。
本作のコア要素である「自陣の範囲」や「敵の攻撃範囲」が見辛い。
ダメージは表示されるのに、自キャラの体力総量は表示されない。
このまま続けるとキリがないので、最後に全体的なUI。
本作は装備システム/クラスシステム的にもステータスが大事だ。
それなのに、ほぼ全てのスキルが「中UP」のような抽象的表記になっている。
体験版では「まず決定ボタンどこだよ?」って思った人も多いのではないか?
そのような「基本的なところ」が、いろいろと欠如している。
「どのように楽しませたいのか」が、節々から全くもって見えてこないのだ。
総評
挑戦的なアイデア、破滅的な内容。
遊べなくはないが、戦略やゲーム性はソシャゲレベルだろう。
この「緩さ」が好きな人がいることは否定しないが、全体的な完成度は見劣りする。
例えばマナのやりくりを発生させるために、時間制限をキツくする。
例えばマスとしてのやりくりが出来るように、敵の行動AIや範囲を変える。
例えば自陣内での固定配置にして、それを戦闘中に変えるのにマナコストを使わせる。
こういった感じで、「陣形を如何にコントロールするか」という方向性が良かったと思う。
現状は、どの戦略要素も「大雑把」なものにならざるを得ないバランスだ。
本作は、挑戦的アイデアが多い日本一ソフトウェアの「コケ方」とは違う「コケ方」だ。
日本一のそれは「やりたい事をやろうとしたが、結果として破綻した」ものだ。
本作のそれは、「やりたい事がそもそも定まっていないから破綻した」というものだ。
最後になるが、ストーリーは最序盤除き全てスキップしたので評価は割愛した。
OPのノリで行くのかと思いきや、意外と普通に薄味な展開だったように思う。
最序盤だけなので、実際にどうだったのかは一切分からないのだが。
なんというか、「そこは尖らないんかーい」という印象だ。
痛々しくても突き抜けられれば、それは価値になり得たかもしれない。
そこに関していえば、やや勿体ない印象を受ける。
とりあえず、「本格」シミュレーションではない。
「個性豊かな」キャラメイクでもない。
本格ストラテジーを名乗るなら、供給リソースの設計くらいはしっかりすべきだ。
個人的お勧め度: ✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩(0/10)