火を点けろ、 ― ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON(レビュー)
燃え残った平成の残滓に。
[タイトル]
ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON [公式サイト]
[対応ハード] ※★でプレイ
★PC / PS4 / PS5 / Xbox One
[プレイ時間 / 進行度] ※レビュー時点
35時間 / ストーリー全ルートクリア
はじめに
多くの熱狂的なファンを抱え、半ば伝説となっているシリーズ、AC。
なんとなく聞いたことがある人も多いだろう。
フロムソフトウェアがソウルシリーズで大成する前の名作……という感じだったろうか。
今回レビューするのは、その最新作であるARMORED CORE 6だ。
良くも悪くも平成的な不親切でオタク臭いゲームを、令和にどう出すのか。
そして、高すぎる期待にどう応えていくのか、気になっている人も多いだろう。
先に言っておくと、本作はとても「令和」であった。
令和でありつつ、平成を残したというべきだろうか。
恐らく、テイルズオブアライズがやりたかったこと、がこれなのだろう。
ということで、さっそくレビューに入ろう。
なお、筆者はACシリーズはAC3/ACLR/ACfA/AC5/ACVDをプレイ済みだ。
まあある程度はシリーズの経験者である、という前提で読んでほしい。
シリーズの魅力としての、世界観
アーマードコアの魅力の一つは、「多くを語らない」世界観だろう。
「フロム脳」という「オタクの自己補完機構」を刺激するような、
キーワードや事象だけを表現し、行間はプレイヤーに委ねるというスタイルを取っている。
本作も例外ではなく、あまり多くは語られない。
相変わらずプレイヤーや登場人物には立ち絵すらないし、細かい背景は語られない。
セリフもある種わざとらしいくらいに立っていて、ドラマを妄想するには十分だ。
このあたりは、シリーズファンにも受け入れられるような形になっていた。
ただ、本作はそれを「令和」のプレイヤーに受け入れられるように調整している。
例えば、過去作は普通にやっていたらメインストーリーが分からなかった。
プレイヤー様々な陣営に参加し、裏で起こっている大きな事象に加担する形だったからだ。
各陣営の目論見や立場は大きく異なるし、本筋を「読み取る」のが困難だった。
だが本作は、プレイヤーが「主人公」といって差し支えない。
プレイヤーが重要な事象に大きく干渉し、その当事者となるような展開になっている。
その中で、様々な陣営に加担することで、その方向性を調整するのだ。
だから、めちゃくちゃストーリーは分かりやすい。
確かに、一傭兵として「傍観する」ことは難しくなった。これも、一つの良さではあった。
だが、「加担」することで「運命を変える」のは従来通りだ。
そういった意味で、目指す方向性における取捨選択がはっきりしている。
ACの世界の面白さは「顔も見えない中、過酷な世界で起きる人間ドラマ」であり、
「誰に加担するかで運命が変わる」という「世界への干渉」にある、と考えたのだろう。
旧来あった「強力な1異分子が、巨大な欲望のうねりを裏から動かす」という要素は薄い。
影で暗躍する一傭兵、という感じはなくなった。
このあたりが好きだった人は、若干のテイスト不足はあるかもしれない。
とはいったものの、上手く取捨選択したな、と思わざるを得ない。
より分かりやすく、受け取りやすく、そしてコアと定義した要素は捨てない。
なんだかんだ、これがACだよな、と受け入れられるような形になっている。
全てあいまいに迎合したテイルズオブアライズと比べ、とても見事だ。
アクション傾向の変化
本作では、アクション面に大きな変更が加わっている。
今までは、地味な削り合いがメインのシューティングアクションだった。
全て回避するのは困難で、ある種被弾を許容して削り合うのがメインだった。
本作は、「メカSEKIRO」と呼ばれるだけあって、根本からデザインが変わっている。
敵にダメージを与え続けるとスタンさせることができ、そこで大ダメージを与えられる。
地味な削り合いではなく、メリハリと気持ちよさのあるアクションへと変貌した。
そして、過去作を「削り合い」と表現したが、本作は「削り合い」ではない。
本作は敵の大技に被弾すると致命傷を受けるため、回避が必須だ。
これは、ダークソウル的に普通に「アクション」として避ける必要がある。
この回避の方法として、三次元的な回避方法を加えたもの、といった感じだ。
アクションゲーとしては完成度は非常に高く、ボス戦はとても面白い。
前述のスタンもあり、メリハリがあり、緊張感があり、気持ちいい。
「これはACなのか?」というと、旧来のACとは全く異なる。
だが総合して、アクションの出来は非常に素晴らしい。
これがACの目指すアクションだ、と言われれば、それでいいと納得できるレベルだ。
ビルド傾向の変化:機体
本作は、ロボットゲーだ。であるからして、機体作成はとても大事だ。
そして、本作はアセンブリ(ビルド)を、わかりやすく再編成している。
まず、機体のデザインや着色面。
こういった部分は過去作と変わらず実行可能であり、細かいエディットが可能だ。
その部分が損なわれていないのは非常に重要なポイントだろう。
そして、機体のビルドそのもの。
本作ではマスクパラメータや意味のないパラメータが恐らく全部オミットされた。
だから、「調べたり運用しないと分からない」といったことがなくなった。
更に、足のタイプによって大きく機体の性能と傾向が変わるようになった。
過去作では重2と中2や4脚でも似たような中間の性能パーツがあり、
なんだかんだ同じような運用が出来たり、特色が似通った部分があった。
本作では、パーツの数がある程度絞られており、全てが特色あるものとなっている。
ある種、「わかりやすく改変/統合された」と考えてよい。
だから、機体の変更が戦術や運用に大きな影響を与え、実感が強くなった。
こういう戦術が取りたいから、こういう風に組み替えたい。
その願望を分かりやすくかなえることができ、わかりやすく反映される。
時間を重視する令和スタンダードでありつつ、ACの根幹は壊していない。
ビルド傾向の変化:武器
本作における武器は、体感では過去作よりかなり多彩だ。
前項でも述べたように、パーツ自体はなんだかんだ多くはないと思う。
それでも、パーツの多くが唯一無二であり、重複が少ない。
だから、手に入れたパーツを試したくなるような造りになっている。
そして、武器の運用と機体そのものの特色が分かりやすく干渉するようになった。
これは以前からそうなのだが、本作では明確な回答が出るようになっている。
例えば、特定の足や腕だと近接火力が上がったり、特定武器の射撃硬直が軽減される。
そういった特色が、わかりやすくプレイヤーに提供されているのだ。
という点も相まって、多彩な武器を使いたくなり、それに合わせ機体を作りたくなる。
このあたりの誘導は見事で、ACのコアは「実感できるビルド」と定義したのだろう。
アクション・ビルドの変革が齎したもの
と、ここまで絶賛ではあるのだが、当然変革におけるトレードオフはある。
アクションが「削り合い」から「死にゲー的」になったこと。
ビルドが「細かいパラメータの取捨選択」から「実感を重視したビルド」になったこと。
これらは、コスパ的な令和スタンダードが失ったものと同じものを失わせた。
それは、「オタク的な研究嗜好」だ。
過去作は、削り合いだった。だから、残弾数や機体の防御なども大事だった。
要は「ステータスの殴り合い」であり、「機体が非常に重要」だったのだ。
初期機体での攻略は極めて困難であり、無謀なレベルだった。
過去作は、パラメータの検証が必要だ。だから、機体を完成させるのが大変だ。
オタク的に複数のパラメータを取捨選択し、機体を組み、運用する。
機体の完成度を上げる作業そのものが、コンテンツとして成立していた。
本作は、そういった「オタク的なもの」を、消し去ってしまった。
ゲームクリアにおいて細かい調整は必要がなくなった。
新しい機体を組む際、適当に組んでも80点は容易に取れる。
80点を100点にすることは、確かにできる。でも、必要がない。
過去作では、「50点ではクリアが出来ない」から「80点を目指すため」に頑張った。
その作業はとても地味だったが、それが楽しかった。
これがなくなったのは残念ではある。
でも、令和の今では、それがそもそも実行出来ないのもわかる。
現代では、ゲームを100%楽しむにあたってネット検索は封印する必要があるからだ。
マスクパラメータなどの解析を、集合知的に調査していく。
そういったアプローチが不可能である以上、自己完結を強要される。
だから、こうなるのは仕方ない。でも、残念だ。
総評
過去の伝説となった、アーマードコア。
平成の、そしてフロムの、過去の名作。
蓋を開けてみれは、令和スタンダードに正しく「進化」した、新たな名作だった。
だが、その進化には痛みが伴う。
過去シリーズにおける「理解を得られないような」面白さは、削除された。
でも、ゲームの完成度は高いし、文句のつけようもない出来だ。
オタク的な面白さがなくなって残念だ、という気持ち。
これは、開発陣の中にもきっとあったのだろう。
だが、そのエゴをきっと捨てたのだ。そして、面白いものを作り上げた。
燃え残った平成の残滓に、火を点けたのだ。
個人的お勧め度: ★★★★★★★★☆☆(8/10)