意図的な難解さという、心地よい傷 ― シカトリス(Xicatrice)(レビュー)
それ以外の傷が、積み重なる前に。
[タイトル]
シカトリス(Xicatrice) [公式サイト] ※steamリンク
[対応ハード] ※★でプレイ
PS4 / PS5 / ★Nintendo Switch
[プレイ時間] ※レビュー時点
25時間弱 / ノーマルクリア
はじめに
日本一ソフトウェアの発売日買いはたまんねェな!!
ということで、今回紹介するのは日本一ソフトウェア新作、シカトリスだ。
本作はペルソナっぽい雰囲気と、パワプロっぽい育成システムを備えたコマンドRPGだ。
スキルの多さとビルドを謳っており、インディーっぽい挑戦的な内容に見受けられる。
一歩間違えば壊滅的。全て噛み合えば完璧。
日本一ゲーの新規タイトルはこういう「博打感」がいつも漂っている。
とはいえ前回レビューした「冒険メシ」は、そこそこのレベルで仕上がっていた。
最近の日本一の新規RPG系のタイトルは、比較的アタリが多いように思える。
グラフィックなどのアセット周りで低予算感は拭えないのはご愛嬌だが。
さて、今回の日本一ガチャは吉と出るか凶と出るか。
さっそく、見ていくとしよう。
シンプルだが、とても面白い戦闘
まずは戦闘システムについて評価しよう。
本作の戦闘システムだが、戦闘要員が4人&随時行動の教師で進行する。
戦闘中に出来る行動は、以下の4つだ。
- それぞれのキャラが行動を1つ提案してくるので、1つを採用して行動
- アイテム使用(1回)
- 戦闘要員入れ替え(1回)
- 特殊スキル使用(専用ゲージあり)
序盤は、ここでいうところの「1」と「2」しか無く、とても単調だ。
だが、中盤から「4」が登場し、「1」で選ばれなかったキャラが自動行動するようになる。
そして終盤は、「1~4」を駆使しないと通用しなくなってくる。
実際のところ、本作の戦闘における行動回数はそう多くない。
4キャラ分動かしているわけではないので、基本はシミュレーションに近い。
「2~4」でメンテしつつ、「1」が上手く回るようなパーティービルドをする感じだ。
だから、「パーティビルド」という側面が色濃く出る。
パーティーとしてシナジーを発揮すること、補助としての「2~4」が永続的に回ること。
それらの「お披露目」として、非常に良く出来ている。
戦闘前にはセーブ可能なのも、とても良心的だ。
ビルドや運用方向を複数試し、突破できる方法を模索するのは楽しく、達成感がある。
レビュー時点ではノーマルをクリアしたが、「ノーマル」の難しさではなかった。
ラスボス戦では「ビルドの複数見直し」「バフ管理」「特殊ゲージ管理」を求められ、
普通に全要素をそれなりに回さないとクリア出来なくなっており、歯ごたえがあった。
こういう「準備」に時間をかけるような戦闘が好きなら、楽しめるだろう。
勿論、ここで言う「準備」には「育成」そのものも含まれる。
惜しい世界観表現
まず本作、舞台設定は割とオタク的で、それなりに尖っている方かと思う。
多少のグロ要素があったり、終始暗い雰囲気が漂っている。
それらの設定自体は、目立っているというところで最低限の印象はある。
ただ、それを上手く活かしきれていない感じは否めない。
例えば、キャラのトラウマ要素とキャラの性能があまりリンクしていない。
教師と生徒という役割は、「授業」というシステムにしか現れていない。
ノベル部分はとってもボリュームがあるが、演出力に欠ける。
イベント用の一枚絵はほとんどなく、どうしても画面には寂しさが残る。
イベントスチルのあるシーンは良かっただけに、全体的なチープさが勿体ない。
世界観的に「バッドエンド」と「グッドエンド(ないし日常パート)」の差こそが大事だ。
これらを表現出来ていれば印象に残りそうだっただけに、残念なところではある。
素材は良いのに勿体ない、とどうしても感じてしまう。
難解な育成システムと、その意義
シカトリスにおける育成システムは、とても難解だ。
キャラには「基礎ステ」と「戦闘ステータス」の二つがあり、
「戦闘ステータス」はレベルアップで、「基礎ステ」は授業などで育成していくことになる。
「基礎ステ」や「戦闘スキル」は、いわゆる「職業」に応じて習得したり成長補正が入る。
基礎ステは授業で育成するのだが、この授業は一定の乱数内から選択する形になっている。
例えば、攻撃力だけ上げたくても、攻撃力オンリーな授業は基本的には存在しない。
……と、ここまで書いて、たぶん意味が分からなかったと思う。
ここに書いたような説明がゲーム内でなされるのだが、正直意味が分からない。
意味が分からないから、雰囲気で育成して結果として器用貧乏が誕生する。
なんなら、器用貧乏に誘導してくるような仕掛けすらある。
これは短所に見えるかも知れないが、実のところ長所であり、狙っている部分に思える。
というのも、本作はクリアまでに何度か周回(引継ぎボーナスあり)をする想定だからだ。
だから周回ごとに、システムへの理解度が増し、新しい方針で考えられるようになる。
途中で仕組みを理解し、やり直したくなったところに、丁度やり直し導線が用意されている。
そういうソフトリセット的なものを設けており、都度習熟を反映できるのは気分が良い。
「ガレリア」をやったことがある人向けに書くと、「中盤の折り返し」みたいな印象だ。
「あー失敗した」というのがネガティブに終わらず、ポジティブに変換できるのだ。
思ったより複雑ではないが、思ったより幅があるビルド
続いて、本作のビルドについて書いていこう。
本作のビルドについては、公式がスキル数を推している事もあり、注目ポイントだろう。
このビルドだが、思ったよりスキル数は多くない。
正確には「スキル数自体は多い」のだが、それなりに水増しされている。
というのも、「魔法」「物理」「依存ステ」差分のスキルがかなり多いのだ。
だから、実際のところのスキル数は50くらいだろうか?
残りは効果が重複していたり、似たようなパッシブであって、戦略に差は出ない。
……と聞くとなんかガッカリだが、実は全然ガッカリではない。
というのも、まともに使えるスキルが50もあるゲームって多く存在するだろうか?
大体のゲームは、戦略を変えられるスキルが5個くらいあるレベルではないだろうか?
そういった意味で、思ったよりスキルは多くないが、戦略はとっても多い。
コマンドRPGにおける大半の戦術は組むことができるだろうし、キャラ縛りも少ない。
だから、かなりの自由度でいろいろな戦術を楽しむことができるだろう。
また、ビルドのメタ変遷が定期的に訪れるのも良かった。
これはLoRなんかで見られたものだが、所謂「ルール変更」に近い要素が出てくる。
それにより、序盤/中盤/終盤で、戦型ごとの強さが変動する。
なので、定期的にビルドを見直す時期が来たりするので、普通に面白い。
ビルドを考えるゲームにおいて、その契機があるのはとても好印象だ。
育成は難解だが、本質は単純
見出しの通りだ。
……というとアレだが、先程述べた育成システム、本質はとっても単純だったりする。
とはいえそれを書いてしまうとネタバレっぽくなるので、詳細は割愛させてもらう。
その上で、本作には高難易度が存在する。
高難易度の場合、恐らく育成をかなり最適化しないといけない。
狙うスキルやステータスの傾向、途中のイベントなどを鑑みてプランを立てないといけない。
そういった時、それらの「データ」が必要になる。
例えば、狙いたい特定のスキルに必要なパラメータや、イベントの必須パラメータなどだ。
職業ごとの成長補正値なんかも、それに該当するだろう。
なのだけど、これらの確認が致命的にめんどくさい。
UIは複数職業を横断したり、特定条件で抽出するような造りになっていない。
高難易度の為に攻略を詰めようと思うと、一回データとして書き起こさないといけない。
令和のゲームは、こういう部分もゲーム内で完結するのが一般的だ。
水準が上がったからこその「贅沢」かも知れないが、やっぱり見やすくして欲しい。
授業開始前に、こいつはどれ上げるんだっけ……を確認し、7人分覚えておくのは辛い。
気になる戦闘のテンポ
先程も述べたように、本作の戦闘はとても面白い。
そして、戦闘の操作自体もほぼほぼ固定で、ビルド設計通りに運用するのがキモとなる。
だからこそ、戦闘は割と「お披露目」の場だったりする。
だけど、この戦闘のテンポが若干悪い。
特に、「パッシブスキルのウェイト」と「状態確認」と「選択」に難がある。
難がある……といっても致命的なレベルではないのだが。
パッシブスキルだが、発動の度に10fくらいのウェイトが入る。
パッシブが少ない前半ならともかく、後半は1キャラにつき10回ほど発動する。
行動一回一回にパッシブのログがずらっと出て、ウェイトが入るのはとても気になる。
また、敵の弱点や味方のパッシブ発動状況を見るには、メニューを開く必要がある。
これらを参照することは結構あるため、どうしてもテンポが悪くなりがちだ。
L2R2あたりで参照出来ればだいぶ違うのだが……。
最後に、行動選択のウェイトだ。
キャラの行動を選択した際、選択ボイスが流れるのだが、言い終わるまで行動しない。
決定ボタンで飛ばすことはできるが、決定を連打しているのはやっぱり大変だ。
という感じで、どうしてもこのあたりが気になってしまう。
一周やる分には良いのだが、二周目の雑魚の消化試合なんかはやっぱりダレてしまう。
ついでに言うと、イベントスキップや決定プロセスかなんかも若干テンポが悪い。
「スキップボタンを押下->カーソルをはいに移動->決定を押下」のように、操作が多い。
全ての選択は上記のように2個の操作プロセスが必要になるため、面倒に感じてしまう。
総評
完成度の高い、パーティビルドを中心としたコマンドRPG。
一言で言うなら、そんなところだろうか?
世界観や設定にも力を入れてはいるが、少し演出力不足だろう。
なんというか、全体的に痒いところに手が届かないのが気になる。
出来は良いのだけど、システムとビルドに全振りされている感じだ。
演出がよかったり、参照UIが良かったり、戦闘テンポが良ければ文句なしなのだが。
個人的には、なんだかんだとても楽しめた。休日に13時間一気にやるくらいには楽しめた。
高難度もとってもやりたい……のだが、諸々の面倒臭さが拭えない。
そこまでは現状手を出せないかなぁ、というところだ。
正直、戦闘ウェイト・イベントスキップ周り(ないし全カット)のパッチだけでも欲しい。
細かい部分が「傷」のように積み重なり、高難度のモチベを削いでいるからだ。
致命傷になるまでは楽しめるが、二週目に行く頃には命尽きてしまっている。
総じて低予算感は拭えないが、ビルドゲーが好きならお勧めできる出来だ。
きっと2を作ったらめちゃくちゃ面白いので、冒険メシ同様とても楽しみにしている。
個人的お勧め度: ★★★★★★★✩✩✩(7/10)